ショートショート
大狼 夕
証拠隠滅剤
K博士は、人里離れた山奥の小屋に住んでいる。
この日も研究をしていたK博士は、研究がひと段落したので一休みすることにした。
「コンコン、」
ドアをノックする音で目が覚めたK博士は、時計を見た。
「もう夜中の二時じゃないか。こんな時間に、こんなところへ、誰が来るというのだろうか。」
「コンコン、」
また、ノックの音が響く。K博士はドアを開けた。そこには、黒い服に黒いズボン、サングラスと大きなマスクといった、まさに絵に描いたような不審者が立っていた。直後、何か果実のような甘い香りがしたかと思うと、博士の意識は遠のいてゆき、そのままその場に倒れ込んでしまった。
眩しい。意識が次第に戻ってきた。目の前にさっきの男が立っている。何故か縛られてはいなかったが、年齢や体格を考慮すると抵抗はしない方が良いと判断した。
「あぁ、ようやく、目を覚ましましたか。」
「誰だ。強盗なら他を当った方が賢明だと思うが…」
「私は、色々なところ、まぁ、基本、色々な発明家のところに、盗みに入り、次の『とき』に役立つものを、頂戴している者です。先程、良い香りがしたでしょう?あれは、R博士からいただいたものです。で、近く、本格的に盗みに入ろうと、財閥の御屋敷や、銀行なんかにね…思っているのです。……おや、こんなところに、何かありますね。これは何ですか?」
男が持つボトルを見て、K博士は精一杯さりげなく応えた。
「ただの眼薬だ。ほら、容器にも書いてあるだろう。」
「博士。正直に言ってください。ただの眼薬ではないのでしょう?ここは山奥ですよ?私も出来るなら、人を傷つけるようなことはしたくないのです。」
「あー、わかったわかった。正直に言おう。それは証拠隠滅剤といってだな、何かをした後にその薬を一滴垂らせば、半径1㎞以内にある液を垂らした人物の、そこにいた・そこで何かしたという証拠が一瞬にして消えてなくなるのだ。お前のようなやつに高値で売ってやろうと思って作っている。が、それはまだ試作品だ。」
それを聞いた男は試しに液を一滴垂らした。たちまち辺りにあった、男の足跡、男の指紋が、綺麗さっぱり消えていく。
「これは良いですね。もらっていきますから。早速、使ってきますね。」
そういうと男は他のものもいくつか鞄に詰め込み小屋から出て行った。
「あぁ、どうすればいいんだ。これから先、生きていけないじゃないか…そろそろ薬を使ってから十分が経つ頃か。あいつは今頃どこかに盗みに入っているのだろう。」
そして、泥棒の足跡が付いている床を眺めた。
「むむっ、足跡が再び出ているではないか。しめしめ、これをたよりに通報すれば…。いやそれはだめだ。そんなことをすれば私が捕まってしまう。どうしたものか。」
それから数時間が経ち、外もほんのり明るくなってきた。
「コンコン、」
「こんどはだれだ。」
K博士は、ドアを開けた。
「警察の者です。先ほど一人の男が町で捕まったのですが、そいつが変なやつでしてね。気づかれないとでも思ったのか、足跡や指紋をあちらこちらにべたべた付けていたのですよ。そして、そいつが言うにはそれにはあなたと何か関系があるそうで… なんでも盗みを手助けするような薬をもらったとかなんとか…」
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