第50話2人の戦い②
職業体験が決まってからちょうど1週間が経った。
職業体験の期間は2週間。これからのスケジュールは朝からケーキ屋で働き、夜は王城で陛下に魔法を教える二本立て。
朝の7時に王都にある庶民向けのケーキ屋さんに集合ということもあり、余裕を持って6時には家を出た。
今日は馬車ではなく、歩きで向かう。職業体験ということは出勤も含められる。親や使用人に任せることは俺のプライドが許さなかった。
母さんに貴族だからと散々言われたがこれだけは譲れない。もうすぐ叙爵されるし、出来るだけ自分でできることはしておかないとね。
そんなわけで朝の王都を歩いているのだがやはり春とはいえ朝は冷え込む。
すれ違う人々を見ると腰に剣を携えたたり、手には盾を持っていたりと冒険者の人たちがいた。
やはりクエストは朝早くからもらわないと無くなってしまうからな。先着順だし。王都のギルドだと尚更だ。
そうしてしばらく歩いていると目的の場所にたどり着いた。
店の前に着くと取り敢えず寒いし、挨拶も兼ねて中に入るか。
「失礼します。王立フォルトナンセ学園の職業体験で来ました。アルバート=フォン=ハワードと申します」
「おっ、職業体験生っすか。取り敢えず中に来てくれっす」
そうして俺の対応をしてくれたのは少し癖のある青年だった。
変につっこむとなんか嫌なのでそのまま指示に従った。
「朝早くに来るとは立派っすね。他の子達はまだっすか?」
「ええ。あと2人ほどいます。楽しみにしすぎて早く来すぎてしまいました。あの、あなたは?」
俺は早く来たことを謝りつつさりげなく聞くことにした。
「自分はマーカスっす。呼び方はなんでもいいっすよ」
「それではマーカスさんと呼ばせていただきます」
「分かったっす。早く来たことですし、先にケーキの作り方を教えておくっす。まずこの店は庶民向けをおもに作ってるっす。つまり手頃な価格でお客様に提供しているということっす。てなわけで生地作りとかを失敗すると店に損害が出るっす。そんなことにならないためにもしっかりと覚えて下さいっす」
そうして前置きは長かったが作り方を教えてくれた。だが初日ということもあり店の掃除や会計を任されることになった。そんなことが決まってしばらくすると店のドアが開かれる。
「本日からお世話になりますソフィア=フォンレーベンブルクと申します」
「同じく本日から1ヶ月間お世話になりますわ。私の名はターニャ=フォン=ベトスフィアでございますわ」
「おお、可愛い子っすねえ! 可愛いし今日は店の前で接客を頼むよ」
いや、仕事決まるんはえーな。
看板娘として働けということか。
「多くのお客様を接客した方が勝ちよ?」
「望むところですわ!」
2人とも頼むから仲良くしてくれよ……。
「それじゃあ、アルバート君は会計お願いね。
それからおよそ3時間後の午前10時にお店が開店した。
開店前から並んでいる人もおり、リピーターの方もいるとわかる。
「わお、いつもより多いね。あの子たちのおかげかな?」
そう、あの2人が店の前に立つことにより、通りすがりの人の目を引き寄せ、自然と足が店に向かっていた。時に通りすがりの人に店のことを話したりして客を引き寄せる。
俺はいい勝負になるんじゃないか、と内心で思いつつ、商品の会計をする。
あっという間に時が経ち、昼休憩を挟み時刻は夕方となった。
「いやー、過去最高の売り上げかもしれないっす。明日からも2人ともよろしくっす」
「「はい!」」
「アルバート君も初めてなのに会計良くできたっすね」
まあ、計算してお釣り渡すだけだしな。
「ありがとうございます」
「その調子で明日も頑張ってくれっす」
俺はマーカスさんの言葉にうなづいた。
やっぱ褒められるっていいよね。
「それでは今日はこれで解散とするっす」
そうして解散となり、3人で店を出る。
「いや、疲れたわね」
「でもこういうのも新鮮で楽しいですわ」
2人とも貴重な経験をしたようだ。
「ソフィアもターニャもすごく頑張ってたな。明日もよろしく頼むよ」
「「もちろん」」
こういうところは息が合うのにな……。
俺たちはしばらく王都を散策してその後別れた。
彼女たちは今日はこれで終わりだが、俺はここからが本番だ。
俺はもう一度気を引き締め直し、王城へと足を運んだ。
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