第14話 包まれる愛


ご主人様が買ってくれたスーツ、結構ぴったりなんだよなぁ……

なんで分かったんだろう……?


「ご主人様!このスーツすごいピッタリなんですけど!?」

「ああ、それか。お前が寝てる時にサイズ測った」

「なるほど〜……って本当ですか!?」

「本当だけど……変か?」

「いや別に変ってわけじゃないですけど……」


いつも寝る時はお互い別々の部屋だから、まさかその間に自分の部屋に入って来てるなんて思いもしなかった……

でもご主人様も素直に言ってくれればいいのに。


このピッタリのスーツは僕を優しく、時に強く包み込んでくれている。

ご主人様に抱きしめられているかのように……

って抱きしめられたことないけど……

スーツを貰ってからひと月ほど経った2月に差し掛かろうとしてる今。

僕はこれからある会社の面接に行く。

面接なんて久しぶりだよぉ……

前の会社では元気に返事してれば受かるような会社だったから、特に何にも考えてなかったけどきっと今回はそうはいかないだろう。

緊張で手足が震えながらも、僕は面接会場までたどり着いた。

受付の人に案内をしてもらって僕は座って待つ……

この間が一番緊張するんだよなぁ……

しばらくすると面接官らしき人が入ってきた。


「今回面接を担当させていただく荒木です」

「よろしくお願いいたします!」

「こちらこそよろしくお願いします。それではお座りください」


そういえば最初はこんな感じだったなぁ……と昔の事を思い出しながら感覚を取り戻していく。

当たり障りのない質問を繰り返した後に、あることについて聞かれた。


「前職を辞めた理由はなんですか?」

「理由ですか……」


前の会社は僕がいろいろ迷惑をかけてクビになった。

その事を正直に話せば印象は良くないだろう。

でもここで嘘をついてなにが変わるのだろうか?

僕は正直に話す事にした。

こういう理由で、こういう迷惑をかけて、こういう風にクビになったと……

面接官は少し苦い顔をし、面接を終わらせようとした。

そりゃ印象は悪いだろう。雇いたくないと思うよ。

でも、僕は確かに変わったんだ!

あの時の自分ではないんだ!

ご主人様……力を少し貸してください……!


「聞いてください!私はその一件以降、何が自分に足りなかったのか何を反省すべきかきちんと考えました!その結果御社に面接という機会を頂ける運びとなり、今こうして自信を持って面接をさせて頂いています!」

「足りなかった事とは具体的には?」

「私は、不安な事があったら逃げていました。それは自信が足りなかったからです。なので私は自信をつけるように努力しました。結果として今このように自信を持って面接会場に足を運びました!」

「なるほど……熱意がある事はわかりましたが、どうぞ落ち着いてお座りください」

「す、すいません……」

「では、これにて面接を終了させて頂きます。結果の方は1週間以内にご連絡を差し上げます。本日はありがとうございました」

「はい!こちらこそありがとうございました!」


無我夢中で喋った面接が終わった。

手のひらにかいていた汗は、一気に乾き寒さを感じる。

とりあえず全力は出した、後は結果だけだ……

だが、多分印象は最悪だろう。

僕なら採用はしないって事だけは言える。



家に帰るとご主人様がもう帰宅していた。

何やらキッチンでガサゴソしている……


「ご主人様!僕がやりますよ!」

「いいんだよ、たまにはやらねぇと腕が鈍っちまうからな」

「でも悪いですよ……」

「お前は座って待っとけ」


僕は渋々リビングに向かい、ソファでのんびりする。

はぁ……今日は久々に疲れたな……

変に緊張したし、いつもよりも多く喋った気がするし……


「おい、起きろ!飯できたぞ!」

「…………ふぇっ!?」


僕は疲れて眠ってしまっていたらしい……


「すいません寝ちゃってて!!」

「ほら冷めるぞ、早くしろ」


食卓にはご飯が並んでいる。

久しぶりだ、人の手料理を食べるなんて……

…………ん?

でも、この料理なんだろう……


「あの、このベチャベチャな奴なんですか?」

「これか?唐揚げだろどう見ても」

「……え?唐揚げですか……?」


ご主人様が唐揚げと呼ぶそれは、鶏肉にベチャベチャの茶色い何かが絡みついてるだけと物にしか見えない。

知らなかった……

ご主人様は料理が下手なんだ……

だから味音痴なんだ……


「唐揚げはもっと衣は固めにしないと全部剥がれちゃいますよ!」

「お、おう……お前料理詳しくなったな」

「当たり前じゃないですか!何ヶ月料理作ってると思ってるんですか」

「それもそうだな……」


ベチャベチャの唐揚げを囲みながら僕たちはご飯を食べる。

ご主人様もショックを受けてか、なかなか箸が伸びないので僕が先に食べる事にする。


「……ん!美味しい!」

「本当か?」

「見た目に反して結構美味しいですよ!」


そう言うとご主人様もひと口パクリ。


「……確かにうまいな」

「惜しいですねー、あとちょっとだったのにー!」

「料理なんて味が全てだろ」

「見た目だって大事ですよ!」


ワイワイガヤガヤしてたら一瞬間が空いた。

突然真面目な顔をしてご主人様が聞いてきた。


「今日、どうだった」

「あー……まあまあってとこですかね」

「なんかあったか?」

「いや……」


別に……と言いかけた所で僕は今日の面接を思い出した。

あの苦い顔を思い出すと自信を失くしそうになる。

ご主人様がせっかく期待してくれてたのに……

そう思うと悲しくて悔しくて泣きそうになるのを堪えるしかできなかった……


「どうせ腐るほど会社なんてあるんだ、今日がダメでも次だよ次」

「…………ありがとう……ございます」


ご主人様は何も言わずとも分かってくれたみたいだ。

やっぱりこの人の期待に応えなくちゃ。

僕は涙をグッと堪え、ベチャベチャの唐揚げを頬張った。


「俺のも残しとけよ」

「何言ってるんですか!早い者勝ちですよ!」



あれから5日が経った。

僕の携帯にある連絡が入った。


「先日の面接の結果をお伝えさせていただきますー」

「は、はい!」

「今回はですね、是非ですね、ご一緒にという形で採用という結果でございます」

「え、え!?さ、採用ですか!!」

「はい、左様でございます。つきましてはまた後日、説明などの詳しい日程をお知らせ致しますので、しばらくお待ちください」

「わかりました!よろしくお願いします!」

「はい、よろしくお願い致しますー失礼しますー」


採用された……

しかも一発で……

びっくりし過ぎて言葉が出ない。

家事が手につかない。


その日僕は帰ってきたご主人様に採用されたことを伝えた。

一番びっくりしていたのはご主人様だった。


「え!?ま、まあ良かったじゃねぇか。今度はクビになるなよ?」


これから僕はまた新しく生まれ変わる第一歩を踏み出し始めた……

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