第6話 笑顔
僕は今、ご主人様とお風呂場にいる。
裸のご主人様。
僕は服を着ている。
どうしてもあと20分ほど時間が欲しい。
なぜなら、ロールキャベツが作れないからだ!!
「なんだ突然」
ご主人様が訝しげな表情でこちらを見てくる。
「いや〜犬らしい事をしたいなぁ〜と思いまして……」
「そ、そうか……」
ご主人様が従順な犬になれと言い出したのに、なぜドン引きするのだ。
「ほらほら座ってください!」
ご主人様を椅子に座らせて僕はボディソープに手を伸ばす。
手のひらで泡を立てる、すると石けんの優しい香りが鼻の中をくすぐる。
ご主人様の奥の方で感じてた匂いはこれだったのか。
モコモコの泡をご主人様の背中に付け広げていく。
他人の体を洗うなんて初めてだ、ましてや男の人なんて……
ひたすら背中を洗う。
ご主人様は背も高く、そこそこガッチリしてるから背中が広く感じる。
それでも洗うのに5分とかからない……
「もういいぞ」
ご主人様が終わりの合図を出す。
しかしまだロールキャベツは出来ていない。
「う、腕も洗いますね!!」
腕も念入りに洗い出す。
未だご主人様の顔は視界に入ってはない。
だから強気に行けるけど、もし怒ってたり不機嫌だったらもうそこで強制終了だ。
しかしやっぱり腕も5分とかからない……
あと10分少々、他のパーツを攻めるか?
「足も洗いますね!!」
そう言ってご主人様の前へひざまずく。
下を向き目をつぶっているご主人様の足を手に取って洗おうとする。
裸の男が目の前にいるならば、当然見えてはいけないものだって見えてしまう。
一瞬バッチリ見たけどすごい鮮明に頭にこびりついてしまった……
AV以外で、しかも生でアソコを見ることになるとは……
しかしそんな事を考えてる余裕はない!
太ももを洗うと変な誤解を受けそうなので、膝から下を洗っていく。
ふくらはぎを泡で包んでなめらかに滑らせていく。
続いて足先だ。
足先も同じように泡で包んで洗っていくが、ご主人様の様子がおかしい……
体がぷるぷると震えてる……?
これはもしや…………?
さらに激しく足先を洗ってみる。
「くっ………うぅ……」
おぉ!?
まだご主人様と過ごして1日半だけど、こんな反応初めて見だぞ!!
これはワンチャン形勢逆転あるんじゃないか??
そう思いさらに足を洗う。
「も、もういいぞ!」
ご主人様は耐えながらも、まだそのご主人様を貫こうとしている。
「えぇ〜?あ!指の間もよく洗わないとダメですよ!!」
指の間ひとつひとつに僕の指を入れていき、くまなく洗う。
「うぉっ!?も、もうやめろ!充分洗っただろ!」
のけ反りながら逃げるご主人様。
「はーい……」
僕はしょうがなく手を引くことを決めた。
「流して出るからお前は晩ご飯の準備をしておけ」
初めてご主人様に勝ったと言えるか?
ちょっとした優越感に浸りながら、キッチンへと戻る。
さーてどうなったかな?
煮ていたロールキャベツの様子を見てみる。
すると、なんということだろう!
鍋がグツグツに煮えたぎっている……
なんだこれは……!!
火が強すぎたのか!?
まさかと思い時計を見てみると、18時50分!?
ご主人様とのイチャイチャが思ったよりも長かった!!
驚いているとお風呂のドアが開く音が聞こえる。
ヤバイ!!
すぐに火を消して、皿に盛り付ける。
しかし、この家は皿の種類は豊富だがまだ料理道具は数少ない。
グツグツに煮えたぎったロールキャベツを箸で掴むのは至難の技だ。
そーっと掴もうとするが崩れてしまう。
しょうがない、これは僕のにしよう……
そして箸で掴むのも諦めよう。
アツアツのロールキャベツを手で掴み投げるように皿に移した。
これが上手いこといって、崩れる事なく皿に並んだ。
見栄えは完璧!味はなんとかなるだろう!!
テーブルへと運ぶことに。
ご主人様は既に座っていたが、お風呂での弱いご主人様のではなくいつも通りの顔に戻っていた。
「ご主人様出来ましたよー」
「ロールキャベツか?」
「そうです!嫌いでしたか?」
「いや、嫌いなものはない……が2日目にしてロールキャベツってなかなかだな」
「そうですか〜?照れるな〜」
「褒めてるわけではない」
そんな会話をしながらロールキャベツを食卓に並べ終えて、僕は座り手を合わせ、いただきますをしようとした。
するとご主人様はこんな事を口にした。
「これだけか?」
「え、これだけですけど……」
ご主人様はやはり食にうるさい人なのだろうか?
副菜とか汁物とか欲しいって言われても困っちゃうんだよなぁ……
「ご飯は?」
「ご飯ならあるじゃないですか?」
人が作ったものをご飯じゃないって思うなんてひどい!!
ご飯なら目の前にあるでしょ!!
「ご飯だよご飯、白米」
「はくまい……?」
ここで僕はとんでもない事実に気付いてしまった……
ご飯と言えば白ご飯だ。
白ご飯あってこその食事だ。
なのに僕はおかずのことで頭がいっぱいだった……
「すいません!!すっかりご飯の事忘れてました!!」
「ふー……そっか、ならしょうがないな」
あれ、あんまり怒ってない?
ご主人様ってやっぱり良い人なんだなぁ。
「あとでお仕置きな」
「えぇ!?な、何されるんですか!?」
「それはお楽しみだな」
そう言ってご主人様はロールキャベツを食べる。
「やっぱりお前はまあまあ上手いもん作るな」
「は、はぁ……」
褒められてもお仕置きが怖くて頭から離れない……
しかし、今日はまだ何も食べていない……
お腹が減ったのも事実。
渾身のロールキャベツをパクッと一口。
んっ!?これは…………!?
「まっず!!」
「え、今なんて言った?」
「いえ、何でもないですよ!!」
これはクソまずロールキャベツじゃねぇか!!
肉の臭みがキャベツに染み込み、それを醤油で煮たことによってより際立っているじゃないか!!
「ご主人様……?本当に美味しいですか……?」
「ん?美味しいが、どうした?」
ご主人様って見た目によらずポンコツなのか?
こんなご飯食べてられないので、さっさと流し込んで洗い物をすることにした。
洗い物を終え、のんびりしてるとご主人様がやってきた。
「どうかしましたか?」
「それじゃあ、お仕置きといこうか」
「え……」
「まずはこれをつけろ」
渡されたのは目隠しだ。
これをつけたらもう僕の視界はご主人様に支配される。
「……はい、つけました」
僕は何をされてしまうんだろうか……
男でなくなってしまうのだろうか……
不安だ……僕がもう少しポンコツじゃなければ……
「それじゃあいくぞ」
覚悟をした、何故だか不安で涙がこぼれた。
「ふぁっ!?」
突然の感触!!
こんなのは初めてだ!!
ダメだもう耐えられない!!
「や、やめてください!!」
「さっきの仕返しだって言っただろ」
「はっ……も、もうダメぇええ」
よからぬ事を想像した僕がバカだった。
僕の足はもう感覚がない。
さっきの仕返しとはまんま、仕返しだった。
「俺はそこまで鬼畜じゃねぇよ」
「ぼ、僕正直不安で怖かったです……」
「泣くなよ、男なんだから」
「で、でももう少し僕がしっかりしてれば!!会社だってクビにならなかったし、こうやって不安にも……」
昨日今日出会ったばかりの人に、僕はこんなに泣き顔を見せている。
最後に泣いたのはいつだろう。
素直な自分をこんなにすんなり出せたのはいつだろう。
気づけば僕はご主人様の胸の中で泣いていた……
「なら、しっかりしろ。そのために俺はお前を引き取ったんだ」
ご主人様は笑っていた。
こんな顔するんだ……いいな、こんな風に笑いたいな。
「少しづつでいい、だから明日からも頼むぞ」
今日、僕は決意した。
犬から人へ……
そう、ご主人様のような男になるんだ!!
「さぁ、寝るぞ!」
「は、はい!」
昨日よりも深く深く眠れた。
明日も頑張ろう、ご主人様がいるから……
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