影のない少年(仮称)

舞川 銀

仮置き

影隠しという簡易的な儀式を知っているだろうか。

簡単に説明すると自分の影を失う代わりに、願いが叶う儀式。

場所は月明かりがよく映る神殿と湖の前。

時間帯は満月の間の丑三つ時。(午前2時~2時30分)

方法はڡ〜ϖوの伝統儀式の舞を神殿と満月に捧げるかのように舞を行うこと


目を閉じ、自分の願いが叶った姿を思い浮かべながら3回来たれと繰り返す。

その後、自分の影が無くなってあれば儀式の成功である。

~~~~~~~~~

と書かれた手紙が届いた。


このڡ〜ϖوとはどこの文字だろうか、どこかの誰かが遊び半分で作った文字だろうか?

そんな思考を巡らせていると辻(つじ)から電話がかかってくる。「なあ、陣(じん)今ラジオ、いやテレビ見てるか?」俺がテレビの電源をつけながら返答すると、辻は話を続ける。

「【偶像】の街から新たな発掘調査で古代文字が見つかったらしいんだよ、どの時代の代物なんかな?」俺はチャンネルを切り替えニュース番組にすると、大量の書物が映し出されている映像が流れる。

ニュースアナウンサーは「貴族の街【偶像】の最南端で発掘調査を行っていたクラウン発掘隊は、どの時代とも一致しない謎の文字が書かれた書物を多数発見しました。発掘隊の隊長からは、「まだ人類が知らない新たな時代を発見した。」とコメントしています。今後はこの文字の解読に注目が集まりまるでしょう。では次のニュースです----」

書物と言って居たが、使われている素材は皮?のように見える?何の皮だろうか?

「今見たよ、でこの文字は何が凄いんだ?」

「よく俺が陣に話している、この国には昔、技術に優れた街があったかもしれないって話したろ?その街が使っていた独自の文字の可能性が高いんだよ、今回見つかったこの文字を解読できたらこの国を発展、いやこの国を大きく変える新たな技術が手に入るかもって話を、ってなあ聞いてるのか?陣」

「ああ、聞いているよ。まさかこの事を伝えるために電話してきたのか?」

「それはそうだが、あぁそれとだな俺がずっと調査している謎の建物で怪しい扉を発見したんだよ、文字についても話したいし、この後あの建物に来れないか?」

「分かった丁度暇だったし、その怪しい扉ってのも見てみたいし、すぐに行く。」


アパートを出て、駐輪場に置いてある自転車を動かしたいのだが、……強風によって倒されて、何台にも重なった自転車のその一番下に安っぽい俺の自転車が下敷きになっていた。自分の自転車を憐れみながら、他の自転車を動かす。アパートの人数に対して駐輪場が少なすぎるのが原因なのだが、早くスペースを大きくするか、自転車用スタンドの個数を増やして欲しいものだと、ぼやきながら自分の自転車を起こす。自転車に跨りペダルを漕ぎながら、街の端にある数十メートルもある建造物を見る。

この街は一定間隔に櫓と壁が交互に建てらられていて街を囲んでいる。この櫓と壁は大昔に他国と戦争をしていた頃建てられ、その領土の取り合いの末今の国ができたらしい、俺が住んでいる国は5つの街で成り立っていて。1番偉いヤツらが住む街【偶像】。2番目に偉いやつらが住む【埴輪】。3番目の【土偶】。4番目は学生や子供が住む街、【人形】。そして5番目は罪を犯し、国から追放された者達がたどり着く最底辺【木偶】。この国は情報管理に厳しく、街と街との情報が操作されていて、4番目の街【人形】に住んでいる俺は他の街の情報を殆ど知らない。あの櫓と壁の向こうに、すぐ街があるのにどんな人が住んでいるのか、どんな景色が見えるのか、俺は知らない。……それと辻の話だとこの【人形】の街だけ情報操作が以上に厳しいのだとか。この土地に子供が住んでいるのは櫓と壁に囲まれていて情報操作に最適だからとかなんとか。(話を聞き流してたから覚えてない)


さて、住宅街を抜け、街の端にある北西方面の櫓の手前にある森を目指し自転車を漕いで40分が経ち、例の謎の建物の前に自転車を止める。蒸し暑いとボヤきながらスマホで時間を確認すると、8月4日午後3時、蝉達が大合唱の季節。

地面に無惨に倒れている入口のドアを横目に、錆付き、草木が生い茂る元ボーリング場に足を踏み入れた。

「お、来たな、それで怪しい扉だけどなここにあったんだよ。」

辻が俺を見つけるやいなや、レジカウンターを飛び越え元はスタッフルームだったであろう部屋に入る。俺もレジカウンターを通り抜け辻が入った部屋へと入る。

部屋の中は無惨にロッカーが倒れ、錆び付き、少し湿っぽい。

「でだ、ここにあったロッカーをどかしてたらな、抜け穴っぽいのを見つけたのよ。」

ロッカーをどかした地面には南京錠がついている床下収納の扉がある。

「南京錠?これ解錠出来るのか?」

「もちろん、クリップを使ってちょちょいのちょいよ」カチッと音と共に南京錠が外れる。

自慢げな顔のしてますけども、犯罪に使わないでね?俺とのおねがい。

そうだ、辻なら何か知ってるかもしれないし、あの手紙を見せてみよう。

「そうそう、辻に見せたいものがあったんだよ」懐からあの手紙を取り出し辻に見せる。

「……、これ陣のところにも来たのか。」

辻は懐から手紙を見せつけながら話を続ける。「この古代文字の所、俺に送られてきた文字と、陣に送られた文字の形が違うと思うんだが、どう思う?」辻からの質問に

すぐさま俺も賛同する。

「やっぱりそうだよな、まぁこの文字数だけじゃ、考えても解読出来ないだろうし、この扉の奥に何があるのか見に行きますかね。」


床下収納の扉を開けるとその下にはマンホールがあった。

------マンホールを2人で協力してどかすと、(うんとこしょ、どっこいしょ)

ハシゴが顔を覗かせた。

「ハシゴのお出まっし、えぇこれ下るの?てか暗っ」とか辻が言葉を漏らしたが、俺もそう思った。

光源が無い直線に続くハシゴを慎重に降りる。

22?23mほど降りると地面に足が着く、電球などの光源がなく、暗闇が続いている。

辻が準備しておいた、オイルライターが光源となり、少し先まで見えるようになった。

コンクリートで固められた道が前方へと直線に伸びているのがうっすらと確認できる。当たりを見渡すとすぐ横の左の壁には杭が打ち込まれているのを発見する、そこにランタンがかけてある。

辻はランタンに火を灯した後、手に取りながら、

「ランタンが置いてあるな、このボーリング場が建てられた頃には電球が一般的に使われてるはずだから、このコンクリートの道はもっと昔からあるってことか、この先に何があるんだろうな。」

辻は凄くこの先に何があるのか楽しみな声色だった。“だが俺は謎の声の主に引き返せと囁きかけられた気がしたが空耳だと自分を信じ込ませた”


40mほど歩いただろうか、一本道を抜け広間のような所にでる。うっすらと奥に鉄の塊があるのが分かる。これは、8mほどあるだろうか?

辻が「デカい門だな」と息を呑む。

さっきのコンクリートの道とこの門は、いつの時代の門だろうか。異様さの塊。それに少し湿っぽい。

この門の先には何があるのだろうか…

左の壁を辻がランタンを片手に調べ、俺が右の壁をオイルライターを片手に調べ始める。

右の壁画を観察する、まるでエジプトの壁画のような壁画が描かれている、汚れていて判別できない箇所があるが、5人?の人物が一体のバケモノとた対峙しているようにみえる。

大昔にこの街で厄災でも起きたのだろうか?

壁の下の方に何か刻まれているのに気づく、なんだろうか…、まるで手紙に書かれている古代文字と瓜二つ…

「陣ー?」

辻が俺を呼ぶ声で我に返る、すぐさま辻の元へと駆け寄る。

「陣はこの文字読めるか?」

左側の壁にも同じく古代文字のようなものが書かれていたらしく、俺を呼んだようだ。

「今考えてて思ったんだが、なぜこの広間にはライトの類を設置していないんだと思う?さっきのコンクリートの道は直線だし、お金の問題とかで設置しなかったと考えられるんだが、この広間には大量の壁画と文字、それにこのデカい門、この広間はお金をはたいてでもライトの類を設置したり持ち込んだりして調査しよう思うんだ。だがここにはランタン1つ。一体何でここの調査は行われなかったのだろうか?」

辻から問われた疑問に俺はずっと答えを返せなかった。

だがこの疑問への答えは別の方法で返ってきた。

ズザザザと、音と共に大地が揺れる。

「地震か?一旦安全のために上に戻るぞ」と辻が俺に聞こえるように強い口調で声をかける。来た道を戻るため2人で走る、そこに物凄い轟音と共にあの異様さの塊、あの門が動き始めた……

門の隙間から巨大な赤黒い手が姿を現す。巨大な手の持ち主は門をこじ開けようと、何度も門を叩く、門が悲鳴をあげるかのように轟音が鳴り響く。5度目の轟音が鳴り響いた瞬間片方の門が吹き飛び左側の壁に衝突する。俺と辻は一本道まであと3歩程まで来たところで、門を吹き飛ばした巨大な手の持ち主を刮目した。怖気が全身を襲う。7mもありそうな、全身が赤黒く身体中から憎悪が湧き出ているかのような、そのバケモノを前に俺と辻はただ怯えているだけだった。

「ミ ヅ ヶ ダ」バケモノが言葉を発した。

見つけた?何を?ここには壁画があるだけだ、なら俺達のどちらかを探していた?

恐怖で足が竦んで体は動かない。なんとかあと3歩の距離を這ってでも、人の身長程の大きさの一本道に入ればあのバケモノの巨大な手からは逃れられるはず。

「ダッ」辻が何を思ったのか一本道を疾走する。

「おい、辻待ってくれよ俺は足が竦んでて……」行ってしまった。

………発狂でもしてSAN値直葬したい気持ちだ。

バケモノが俺の体を掴む、何か言葉を発しているように見えるが俺には聞こえない。

「あぁ、これが死か。」このまま俺は喰われるそんな予感がした。

バケモノが空いてるもう片方の手を使い俺の左腕をもぎ取る、その瞬間痛みで叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ、俺の左腕だったものは宙を舞い、血飛沫が赤黒いバケモノの体に付着する。

満足したかのようにバケモノは俺を左側の壁に叩きつけた。

痛い、寒い寒い?大量出血で体が寒い。

「うぉぉぉぉ」辻の声が聞こえる

両手に棒状の物を持っているのが見える。

「あのぉ、」「あの、おきて」誰の声だろう?辻が何かを叫んでいるのに、謎の人物の声しか聞こえない。辻が何かを叫ぶ、持っている棒が共鳴するかのように赤く光り始める、その勢いでバケモノに斬りかかる、バケモノが怯んでいるのは分かる。

意識が遠のく、視界が真っ暗になる。「あぁ、俺もここまでか」-----------||

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影のない少年(仮称) 舞川 銀 @mauginryu

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