乙女ゲームの主人公に転生したけど、悪役令嬢のヒロイン力が高すぎてイケメンの攻略ができない
@hayanenayaoki
「何バグってんのよ」アルフォンスー1
私は、気が付いたら乙女ゲームの世界にいた。
目が覚めたら天蓋付きのベッドで寝ていて、起こしに来た侍女に「エミーリア様、今日は学園の入学式ですよ。遅刻なされませんよう」と言われて、見覚えのある制服を見た時にピンときた。
天蓋付きのベッドで目覚めるのはプロローグの演出だったし、エミーリアは主人公の名前だし、貴族が通う学園の制服はキャラクターのデフォルトだったから、飽きるくらい見てきた。
そしてとどめに、鏡に映った私の顔を見てみる。
綺麗な緑がかった白銀のフワフワの髪、白く柔らかい肌、長いまつげに縁どられた深緑色の宝石のような眼。
控えめに言ってめっちゃ可愛い。
よし。確信した。
私は今、自分が重課金していた乙女ゲームの世界に主人公として存在しているらしい。
最近は異世界に突然転生することもよくあるというし、私は驚かない。
そして転生先が課金してすみずみまで攻略した大好きな乙女ゲームならば、むしろ嬉しすぎる。
しかも主人公だから、選択さえ間違えなければハーレムエンドも夢じゃない。
今まで頑張ってきてよかった。
課金とか課金とか課金とか、時々レベル上げとか頑張ってきてよかった。
私ことエミーリアは、これからこの乙女ゲームの世界で可憐に華麗に恋愛無双してみせるのだ!
エミーリアは朝ごはんを食べ、制服を着て馬車で学園に向かう。
最初のイベントはエミーリアが学園に向かう途中で暴漢に襲われそうになるところから始まる。
ゲームの序盤でなぜかいきなり暴漢が出てくるが、これはエミーリアの光魔法の力の覚醒に必要なイベントなので、まあ運営さんもどうしても入れるしかなかったイベントなのだろう。
「お前!馬車を止めろ!これから俺と一緒に来い!そうしたら命までは取らないでいてやる!」
…よし、来た来た。このハスキーな声、憶えてますよ。闇魔法が遣える暴漢さんのお出ましですね。
ここで悲鳴を上げたらたまたま通りかかったこの国の王子、アルフォンス様が助けようとしてくれるんだけど、暴漢がモブのくせに強すぎて王子が怪我をしてしまう。そこで王子を守りたい!と強い気持ちで願ったところ、主人公のエミーリアの光魔法が開花して暴漢を撃退する。
それから王子が「凄い、君は光魔法が使える特別な存在だ!それに僕を思う強い気持ちで魔法を開花させたなんてなんか気になる子だ!」となるのがこの暴漢エピソードなのである。
「俺は闇魔法が使える!大人しくしておいた方が身のためだぜ?首を吹っ飛ばされたくなければな!」
「きゃー!」
うんうん。そうやってここで私が叫んで…
…あれ?私叫んでないけど?
エミーリアは急いで馬車の窓を開けて外を確認する。
貴族のお嬢さん方の通学路ということで、綺麗に舗装された馬車道でなにやらドス黒い気配が渦巻いている。
暴漢はエミーリアの一つ前の馬車を襲っていた。
一つ前の馬車は横倒しになりひしゃげていた。
何故かもうすでに、例のアルフォンス王子が暴漢と交戦している。王子の護衛は既にみんな地に伏していて、ピクリとも動かない。
あっ、と思ったら、アルフォンス王子は誰かを庇うように前に出た。
ガァッと暴漢の回りをのたうちまわっていた闇魔法が、剣を構えたアルフォンス王子を捕まえた。
アルフォンスの首には黒い闇魔法がまとわりついていて、彼を宙吊りにする。
苦しそうに口から血を流していても流石、絵になるイケメンだ。
誠実で正統派イケメンの彼は血もしたたるいい男だ。
…っていうか、首吊られてたら首吹き飛ばされる前に死んじゃうよね?
「そこの暴漢!貴方が襲うべき馬車はいっこ後ろのこの私の馬車でしょ?!何バグってんのよー!」
エミーリアは気づいたら飛び出していた。
「基本の光魔法、X+Y!」
エミーリアは右手に激しく光る剣を持ち、アルフォンスの首に巻き付く毒蛇のような闇魔法を断ち切った。
ゲームだったら、傷ついた王子がそれでもエミーリアの盾になろうとしたときに、光魔法X+Yの説明が出てきて使えるようになるんだけど、王子は私の盾になってくれる前に死にそうだから、とりあえず私を助けてもいないのに無駄死にはやめていただこう。
「基本の光魔法その弐、A+B!」
光の剣は伸びて、鞭のように暴漢を狙う。
これで瞬殺…!
とエミーリアは思ったのだが、闇の魔法陣が幾重にも現れ暴漢を守る。
「くははははは!お前か、お前だったのか!」
黒いフードの暴漢は高笑いを始めた。
何それこの暴漢ガードとかできるの?!
そんな仕様あったっけ?もしかして私が重課金者で超必殺技も使えるから序盤からちょっと難しいってこと!?
「じゃあ課金して手に入れた上級光魔法がうちの一つ見せてあげる!AA+B+XX+YYY!」
エミーリアの両手両足に光の魔法陣が現れる。
これでエミーリアは大げさに言って光の速さと、人間の限界を超える肉体を手に入れた。
エミーリアは息つく間もなく暴漢に切りかかる。
エミーリアの光の剣は暴漢の体を貫いた。
暴漢が消える。
倒したか。あっけない。
しかし、彼を倒したその感触はお風呂の湯気の中に手を突っ込んだ時と似ていた。
「なんだろ…でも、とりあえず撃退できたしいっか」
エミーリアは地面にすとんと降り立つと、しゅんッと光魔法を解除した。
この暴漢イベントは、光魔法を開花させるためだけのものなので、何かのフラグでも何でもないのだ。
…まあゲームの中だから人を刺しても、肉を刺した感覚はしないってことかな?
っと、それより王子、王子。私の推しではないけど三番目に好きなキャラだからしっかり高感度上げとかなくっちゃ。
「…って!」
後ろを振り向くと、悪役で主人公のライバルのエルフリーゼが、ぐったりする王子の頭を膝にのせて涙をこぼしている。
王子の手をぎゅっと握ってあげている。
暴漢が間違えて襲った馬車の持ち主はこの悪役令嬢、エルフリーゼだったのだ。
「アルフォンス様、しっかりしてください、私を庇ってこんなことに…本当は私が貴方の盾になるべきでしたのに…王子が死んでしまってはこの国が…」
エルフリーゼの涙がアルフォンスの顔に落ち、うっすらと目を開けた彼は弱弱しく微笑んでいた。
エルフリーゼは金色の髪と紫色の目の美人な女の子だ。その彼女が金色の髪と赤色の目のいかにも王子なアルフォンスに覆いかぶさるように泣いている。
よく見ると、童話のクライマックスで王子が我が身を犠牲にお姫様を守り抜いたシーンに見えなくも無い。
…ってか、お待ちくださいな。ヒロイン差し置いてなんでそこ、そんないい雰囲気になってるんですか?
王子なんて悪役令嬢の顔を見て『僕の命はもう長くないかもしれないけど、君が無事でよかった』みたいな顔しているじゃん。
主人公ヒロイン乙女は私ですけど?
「ちょっとどいてください!課金者なめんなよ!」
エミーリアはエルフリーゼに体当たりをかました。エルフリーゼがあっと言って突き飛ばされ、アルフォンスの頭がゴンッと地面に落ちる。
アルフォンスが死にかけながら痛そうな顔をした。
「最上級光魔法、死者蘇生!AAAAA+BBBB+X+Y!」
アルフォンスの体が光の魔法陣の上で治癒されていく。
アルフォンスがかはっと小さく息を吹き返した。
彼の瞼が開かれ、ゆっくりと上半身を起こす。
苦しそうに2、3回瞬きして、
そしてエミーリアを見た。
「…君が助けてくれたんだよね。光魔法の使い手だなんて…薄れゆく意識の中で思ったよ。何て凛々しく頼もしいんだと」
「いいえ、私は貴方を助けたい一心で」
ヘビープレイヤーだったエミーリアは1番好感度があがるセリフの選択肢をすべて覚えている。
ふう、エルフリーゼがいっちょ前に王子のために泣いてたことにはびっくりしたけど、やっぱり主人公はエミーリアですよね。
「本当にありがとう。それにしても、あんなに強い闇魔法使いがいるなんて…」
「ええ、王子様でも敵わないなんて、びっくりでしたね」
「かくいう君は凄い勢いで撃退していたようだけれど…
しかしそんな君の雄々しさは歴戦の強者だとお見受けしたよ。
僕たちはこれからも奴のような者と戦うことを強いられるかもしれない。その時に光魔法の使い手である君がいたらとても心強いと思うんだけど、君は僕の専属騎士になる気はない?」
「…へ?」
たしかに私は、この乙女ゲームを何巡もした歴戦の強者ですけど?
でも、雄々しい専属騎士になるために課金したんじゃないやい!
「考えておいてくれるかな?」
アルフォンスはエミーリアの手を両手でぎゅっと握った。
エミーリアはなんで?と言いたかったけど言えなかった。
それから、アルフォンスはエルフリーゼの方に向き直る。
「君、僕のために泣いてくれていたよね。名前を聞いても?」
アルフォンスがしっかりとエルフリーゼを見つめる。
エルフリーゼはまだ瞳を潤ませて鼻の頭を赤くしているが、アルフォンスの問いかけに照れたように笑って、
「エルフリーゼ・フォン・エーバークです。アルフォンス様がご無事で、本当に良かったです」
と言ってぽろりとまた涙をこぼした。
…あれ?ゲームだったらここで私が名前聞かれて、ご無事でよかったですって言うところだよね。
この悪役令嬢何やってんの?
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