第21話 人選

「お願い! 助けてください!」

 昼休みの小会議が数分前に終わり、生徒会室はがらんとしている。他の部員が帰ってしまったにもかかわらず祐輝が残っているのは、玲奈がそう頼んだからだった。

 二人になるや否や、玲奈は祐輝に頭を下げた。

「え、何。生徒会長、それはさすがに怖い」

 祐輝は目に見えて引いている。けれど、他に頼めそうな人はいないのだった。

「園田くんしかいないの。ほんとにお願いします!」

 祈るような気持ちで返事を待っていると、祐輝が長い息を吐く音が聞こえた。

「……具体的な内容は? それ次第」

 乗り気ではないのがはっきり伝わってきたけれど、それには気づかないふりをして玲奈は事情を説明した。


「……つまり、デート服をコーデしろと?」

 玲奈の話を聞き終えた祐輝が呆れたように言った。自分でも、「デートに着ていく服がない」なんてベタすぎる悩みだと思う。でも本当なのだから仕方ない。

「生徒会長、友達とかいないの?」

 そんな祐輝の言葉に、玲奈は琴音や彩佳の顔を思い浮かべる。

「いないわけじゃないけど……」

 もし相談したら、二人とも嬉々として手伝ってくれるに違いない。例によって、玲奈のことなんかそっちのけで盛り上がるのだ。そして最終的には、女子大生が合コンに着ていく勝負服みたいなのを着せられることになると思う──ほぼ間違いなく。それはさすがに遠慮願いたい。

「うーん、っていっても俺も服飾方面は……」

 祐輝はそう呟いて腕を組んだ。しばらく考え込んでいたが、突然何かを思い出したように「あ」と声を上げる。

「生徒会長、着せ替え人形に耐える気力と体力ある?」

 なんだか不穏な質問をされた気がするのは気のせいだろうか。

「……ねえ、今『着せ替え人形』って言った?」

 恐る恐る聞き返すが、祐輝の意識はすでにスマホに向かっていた。

「あ、もう! 校内なのに」

 携帯機器類の校内での使用は校則で禁止されているのだ。まあ、実態としてはみんな隠れて触っていたりするけれど。

「生徒会室は治外法権でしょ」

 画面から顔を上げずに祐輝が言う。もちろんそんなことはない。

「……執行部は特権階級じゃないわよ」

 玲奈がそう言ったのと、祐輝が画面をこちらに向けたのが同時だった。

「今日、うまいぐあいに早上がりらしいんだけど。生徒会長は空いてる?」

 どうやら、こうして言い合っている間にも何か話が進んでいたらしい。

「空いてるけど……早上がりって誰が?」

 返ってきたのは、いつぶりかに見るあの不敵な笑みだった。

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