カスタム彼氏

山田 弘

第1話

純一、貴方は私だけのもの......




 「はぁ、疲れた。」今日もいつも通り18時に帰宅、冷蔵庫から冷えたビールを取り出し今夜も一人しかいないこの部屋で寂しく晩酌をする。私はとある会社の受付嬢をしている。世間では私達のことをOLと呼んでいるらしい。私はスマホを片手に仕事で溜まったストレスをビールで流しながら、唯一の楽しみである恋愛漫画に目を通す。恋愛漫画は大好きだが、あいにく私は自分自身で恋愛をしたことがない。別にしたくない訳じゃない。私だって恋愛がしたい。しかし、物事をはっきり言う性格からか昔から男は近寄らなかった。そういえば私は今年で27歳になる。地元の友達は皆結婚して、子供がいる友達もいる。親からも結婚について言及される。どうやら早く孫の顔が見たいらしい。そんなことを思い出し、ため息混じりにスマホの画面をスクロールしていると、ある広告が目に入った。


 「カスタム彼氏...?」「彼氏」という言葉に反応してしまったのか、私はつい広告の画面をタップしてしまった。「組み合わせは自由、あなただけの理想の彼氏を作ろう!」広告の画面の一番上にそう書いてあった。どうやらこの「カスタム彼氏」はアンドロイドのようなもので肌の感触がより人間に近いパーツと、最新の人工知能で相手の性格を分析して、相手の思い通りの彼氏に仕立て上げるというものだった。「どうしようかなぁ。」周りが結婚していること、親から結婚を急かされていること、そして何より今まで恋愛をしてこなかった自分を変えたいと思い、「カスタム彼氏」の購入を決断した。ちょっと高いが、今までの独身生活で無駄な出費を抑えることができた。自分へのご褒美ということで少しくらい貯金を使っても罰は当たらないだろう。私は必要な情報を入力して早速理想の彼氏作りを始めた。「体型は痩せ型、いや、マッチョかな?」「リードしてくれるタイプ?それとも草食系?」試行錯誤を繰り返しながら私はやっとの想いで彼氏をカスタマイズし終わった。気づけば4時間以上時間が過ぎていた。「明日が休みでよかった。」私はほっと胸を撫で下ろした。仕事からの解放と彼氏をカスタマイズし終わった安心感から、私はそのまま眠ってしまった。


 「やばっもう11時過ぎてる。」目が覚めるともう日が出ていて、子供達の遊び声が外から聞こえてきた。いつもの癖でメールチェックをすると、例の「カスタム彼氏」からメールが来ていた。どうやら今日の夕方に到着するらしい。その時私は何故か変に気持ちが舞い上がってしまった。お風呂から上がった後も緊張が治らない。「よし、買い物でも行くか。」どうやら「カスタム彼氏」は着ている服や、料理の味、相手の生活週間など細かい部分も学習し、その環境に適応していくらしい。これだけでもハイスペックなのに実際に生活したらどれだけ充実した生活が待っているのだろう。だめだ、妄想が止まらない。有頂天な気分になりながら、私は彼氏の衣服や晩ご飯の買い出しに向かった。帰ってきたのは4時前だった。ポストに不在票が入っていなかったので、まだ彼氏は届いていない。私は彼氏が来るまで部屋を少し片付けることにした。帰ってきてから約30分後、部屋のインターホンが鳴った。「はーい。」配達員の人が身の丈よりも少し大きい機械的な箱を持っている。「カスタム彼氏」だ。私は伝票にサインすると、すぐさま箱に付いている起動スイッチを押した。

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