13

 アスヴィルの訴えはこうだ。


 ミリアムのことが大好きなシスコンのセリウスは、昨日から暇さえあればミリアムにつきまとい、アスヴィルが近づこうものなら、あらゆる策を行使して妨害するという。


 例えば――


 廊下でミリアムを見つけてアスヴィルが近づこうとすれば、突如足元にぽっかりと穴が開き、地下深くまで落とされたり。


 夜、ミリアムに軟禁した謝罪もかねて花束を持って仲直りしようと訪れると、扉を開けた途端頭上から何十本もの槍が降ってきたり。


 そのほか、セリウスの妨害行為は数知れず、アスヴィルはわずか一日でぐったりとやつれてしまっていた。


 しかもアスヴィルに分が悪いことに、ミリアムは今回アスヴィルが彼女を軟禁しようとしたことで怒っているのだ。


「このままだと、本当に離婚されます!!」


 アスヴィルは顔を覆って嘆いた。


 さすがにシヴァも憐れに思ったが、ここでセリウスをミリアムから引きはがし、標的を沙良一本に絞られると、それはそれで困る。


 シヴァは少し考えてから訊ねた。


「それで、セリウスは今何をしている?」


「ミリアムと仲良く温室でお茶会です!」


 アスヴィルは悔しそうに叫んだ。本来ならミリアムの茶会の相手は自分だと言いたそうだ。


 シヴァは、はあ、とため息をついて、一言弟に苦言を呈しておこうかと立ち上がった。むろん、沙良を抱きかかえたまま、である。


(気は進まないがな……)


 セリウスは昔から言ってきくような素直な弟ではない。


 シヴァが注意したところで聞き入れるはずはなく、むしろ逆に助長するような気もしている。


 だが、このまま黙っていると、アスヴィルだけではなく城中から苦情が舞い込むのは目に見えていた。


 あの弟は昔から他人の迷惑はこれっぽっちも考えないのだ。


 どこまでも自分本位な天上天下唯我独尊男――それがセリウスである。


(追放するなら、十年ではなく百年くらいにしておけばよかったか……)


 今更ながらに後悔するが、すでに遅い。


 シヴァはアスヴィルを伴って、重たい足取りで温室に向かったのだった。

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