初めて使った魔法

椎名由騎

癒しの魔法

 魔法を使うことが日常となった世界。

 生まれた最初の日から魔法使いに弟子入りし、魔法の基礎を叩きこまれる。それがどういった魔法なのかは親が預けた魔法使いによる。炎、水、雷、光、闇の五種類に分類され、覚えるにしても遺伝が関係してくるが、魔法使いに弟子入りしても魔法が一切使えない見習い魔法使いがいた。


 親は光の魔法を使えた為、その息子も光の魔法使いに弟子入りしているのだが、光魔法の呪文の言葉にしても一切魔法と言う形にならなかった。


「預かっているが、使えなければ意味がない」


 師匠である魔法使いは悩んでいた。魔法を使えない子供は出来損ないとして島流しとなる。魔法が使えることこそがこの世界での人の役割であり、一人前になれば世界の一つして役割が与えられる。


「(あの子には申し訳ないが流刑になってもらうほか……)」


 そんなことを考えながら男性は立ち上がり、一人で勉強している弟子のところへと向かおうとした時、外から泣き声のようなものが聞こえてくる。聞こえてくる方に向かうと、勉強をしている筈の弟子の少年が泣きながら動物たちに囲まれていた。魔法使いが近寄ると警戒する動物に追い払おうとすると、弟子が声を発した。


「傷つけないで……ください」

「別に傷つけるつもりはない。これは君に近寄れないから追い払うだけだ」

「それでも、だめです」


 ダメと言った弟子に魔法使いはどうしたのか疑問を投げかけた。そうすると、ぽつりぽりと話し出す。勉強をしていた時に外から物音が聞こえてきて、確認をしに出てきたところ怪我をしたリスを囲うように集まっており、治療道具を持ってきて治療しても目が覚めず、泣いていたとのことだった。弟子の横を見ると、リスが生き絶え絶えに横たわっている。


「生き物の命など儚いからな。共存競争には私達でも叶わないよ」


 これではリスは持たないと思う。魔法使いの口からはそんなことを言っていた。


「でも何かある筈です!魔法だって」

「魔法では命を扱いことは出来ないと教えただろ!」

「っ!?…ぼ、ぼくはそれでも見過ごすことが出来ません!!」


 その時だった。


「えっ」


 弟子から光が出て、目の前で起こった光景に目を見張る。横たわっている筈のリスの怪我が段々と治り、息遣いが通常通りに戻っている。その光が終息すると、弟子がプツンと糸切れたように倒れそうになり、魔法使いは弟子を抱き抱えた。今の光を考えても魔法使いは何も思いつかない。しかし、怪我が治る魔法など存在するわけがないと、これまでの書物にも書いており、現れたという記録もない。


「どうしたものか………」


 魔法使いは考えながらも一旦家の中に入って或る人に連絡をしようと弟子を持ち上げる。その様子を先程まで横たわっていたリスや動物たち見つめていた。

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初めて使った魔法 椎名由騎 @shiinayosiki

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