第7話 埋まらない
授業だって勉強だって上の空。何もやる気が起きない何も手につかない。そんなに状況がここ数日続いて紗綾と別れてからあっという間に1週間が過ぎようとしていた。俺たちの関係を暴いた人間もだいたい検討は付き始めてるが決定的な証拠が出てくる訳でもないし自供をしてくれる訳でもない。それでもそいつとの距離感が変わった気がしてそこから何となく察しがついた。
部活を終えてまた木島は俺から避けて以前は木島自身が仲良いとは当然だけど言えない。なんて言ってた相手を連れて帰ろうとする。そんなにあからさまに俺を避ける必要なんてないだろう。そう思い、「木島。ちょっと…」と彼を呼び出し少し時間を貰うことにした。彼が俺たちの関係を暴いたなんの根拠もなかったが何となく紗綾の話をしてみた。「さぁちゃんやっちまったな…これからどうなるんだろうな。」と少し思い空気にしてしまうような発言をする。すると木島は「さぁちゃんの彼氏、元々オタクだったらしいじゃんか。握手会の帰り道たまたまさぁちゃんにあって以降急接近したんだろ?要はダメだって分かっててもお互い好きになっちゃったもんだから禁断の恋ってやつか。」と言った。その言葉は深く心に刺さったが何とか平常心を保ちつつ「まぁ、そういう事だよな。」と返す。その後はそれ以上でもそれ以下でもない微妙な話を淡々と続けて、久しぶりに木島と一緒に帰ることとなった。
木島はその後、前と同じように接するようになった。ただ以前と違う事が唯一存在する。それは彼の推しがさぁちゃんからもう1人の4期生エースひまちゃんこと佐藤ひまわりちゃんになった事だ。木島が口ずさむ歌も以前と異なっていき、次第にさぁちゃんの話も聞かなくなった。そうして少しずつオタクになる前の普通の俺、普通の木島、普通の距離感、当たり前の日常が戻ろうとしていたある日、事態は急転する。
話は1ヶ月以上前に遡る。紗綾は俺と別れて以降表舞台からは姿を消しグループの活動を一時的に休業していたと聞いていた。理由は言わずもがな、そういうことである。決まっていたお仕事、次のシングルでのポジション。全てひまわりちゃんに取られたなんてことすら俺の耳にも届くほど彼女は芸能界から追放されていた。
しかし、そんなアイドルとしてはほぼほぼ瀕死状態の彼女が、握手会があれだけ苦手と言っていた1人の女の子が次のシングルの握手会で謝罪のことばをファンの前で述べた後、握手会に復帰するという話を木島から聞く。正直人前で弱い姿を見せているあのメンタルが弱い紗綾なんか見たくない。俺が見たいのはいつでもテキパキしていて大好物のハンバーガーを美味しそうに食べる彼女の笑顔だ。だから、木島にひまちゃんレーンに一緒に行こうと誘われても行きたいなんて思えなかった。
結局、気づけば俺は握手会当日会場に木島と一緒に来てしまっていた。
今日あなたに会いたくて しおとも @ShioyaTomori
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