今日あなたに会いたくて

しおとも

第1話 二度とないチャンス

雲ひとつない空には星が幾つも見えていて、今日は自分の気持ちも晴れている。隣には紗綾。手を互いの愛を確かめ合うかのように絡め合い少しづつ互いの顔が近づく。紗綾が目を瞑り、自分も相手の唇の位置を把握しつつ少しづつ近づけていく「大輝〜!大輝〜!」何故だろう。母さんの声が聞こえる。そんなの無視だ。なんて言ったって遂に推しメンでもあるさぁちゃんとKissが出来るのだからだ。「大輝〜!早く起きないと遅刻するよ!」その一言でようやく目が覚めた。なんだ…夢か。大きな体を起こして今日もある部活に行く準備を始める。昨日の夜は一生の恥だ。もう二度と思い出したくない。


昨日の夜は同じクラスの女の子と2人で花火大会に行った。事前に友人を使って下調べしたらその子も自分のことは気になっているという風に聞いていた。自分で言うのも少し抵抗があるが自分は今までルックス、運動神経、学業面、性格全てにおいて他人より秀でていたためフラれるなんてことは考えてもいなかった。しかし「私アイドルが本当に好きで大輝くんの相手をしてる余裕ないんだよね。笑」アイドル>現実のイケメン。そんな世の中にいつなってしまったんだ…


その日の空は晴れていたのに自分の心は大雨だ。帰り道はものすごく何かに縋りたいそんな気持ちになっていた矢先、友人の木島から連絡が入る。「リア充おめでとう!おれは紗綾がいるから友人同士で挙式しような!」ふざけるな。木島はいつもこうだから、オタクのテンションにはついていけない。それよりも木島のアイコンの女の子が可愛い。めちゃくちゃ可愛い。俺は「フラれた(涙)それよりも木島のアイコンの女の子何者?」と即座に返信する。すると木島から「フラれてさぁちゃんに逃げるのか?(笑)とりあえず今からうち来たらその子紹介するよ」と返ってくる。そして木島家で紗綾について沢山の動画なり写真なりを見させられ登坂36の4期生本橋紗綾ちゃん通称さぁちゃんのオタクと化す


朝から思い出したくないこと、新しい自分が誕生したこと、そのふたつの経緯を話したところで部活の練習に行くために家を出る。


部活を終えとぼとぼと家に向かって帰る。隣では木島がさぁちゃんのセンター曲である「ヘミングウェイ!」を歌っている。そして俺もそれに合わせてコールをする。登坂36の握手会も近日中にあると聞き2人で行くことにしたはいいが握手会に行ったら俺は本当にオタクになってしまう。少し後ろめたさもある。


そんな気持ちと裏腹に握手会当日には登坂の握手会会場に来てしまっていた。思っていたよりも女性客が多く、みんな意外と小綺麗でイケメンも多い。そして念願のさぁちゃんとも握手して余韻に浸っている中、木島と2人で帰り道の途中で見つけたお店に立ち寄る。木島と今日の握手レポをスマホに打ち込みながら雑談をしているとお店に明らかに周りとは違う雰囲気を出しているとてつもなく可愛い女性が入店し、カウンター席に座る。あれはどう見てもさぁちゃんだ。ただ、木島は気づいていないらしい。そんな中、木島母が急に倒れたと連絡が入り急いで木島が家に帰る。


さぁちゃんはつけていたマスクを外しおもむろにハンバーガーを食べる。めちゃくちゃ可愛い。尊い。ぼーっとさぁちゃんを拝めていたら店員から「おひとり様なのでカウンター席に移動お願いしてもいいですか?」と神のお告げを受ける。そして気づけば俺はハンバーガーを2つ持ってさぁちゃんの隣に座っていた。神様ありがとう。害悪って言われてもいい。とにかく1回普通に話してみたい。ここでさぁちゃんに声をかけなきゃ男じゃねえ!俺は勇気を振り絞って声をかける「あの…」

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