第156話 鳴の無自覚

 翌日、凛は退部と脱退の旨を皆んなに報告した。


 皆んな一様に驚いていたが温かく凛を送り出してくれた。


 特に『織りなす音』のメンバーは凛に理解を示した。


 凛は報告が終わると先に帰宅した。


 凛の言う通り僕は無自覚で、色々分かっていないのだろうか。


 今日の練習では凡ミスが目立ってしまった。




 ——「ねえ、今日も寄って行こうか」


 珍しく衣織からミーティングに誘ってくれた。


「鳴、絶対なにか悩んでるでしょ?」


「師匠、遠慮なく話してほしい」


「お触り以外なら聞いてあげるよ」


 ひとつ変な励ましが混ざっていたがそれはいいだろう。つか、僕の心理状態……筒抜けだな。


「衣織、時枝、穂奈美ありがとう……やっぱ隠せないね」


「鳴は音に直結するからね」


 まあ、確かに自分でも凡ミスの多さが嫌になったぐらいだ。


「凛に無自覚をどうにかした方がいいって言われたんだ」


 皆んな『あっ察し』って顔をしていた。


 この反応だけで、僕が無自覚だってことが分かる。


「音無くんは確かに色々無自覚。無自覚にフラグ立てまくるし。無自覚にラッキースケベを呼び寄せてるし……控えめに言って女の敵」


 えっ……そうなの? フラグ? 


 つかラッキースケベって呼び寄せるものなの? 


 女の敵?


「それだけじゃないって、無自覚にイチャコラしてるし、無自覚にハーレムしてるし、無自覚に敵作りまくってるよ」


 えっ……イチャコラ……してるっけ?


 ハーレムは……自分でもなんとかしようと思ってるけど、時枝が言う?


 そんなに僕、敵作ってるのか……。


「まあ確かに鳴は、無自覚にヤキモチ妬かせまくるし、無自覚に色んな女の子と仲良くなるし、無自覚に不安にさせるわね」


 えっ……衣織ヤキモチ妬いてくれてるの?


 そんなに、色んな女の子と仲良く……なってるか。


 不安にさせてるの! ダメじゃん!



 この流れ……昨日と同じだ……僕の悩み聞いてくれる会が、僕のダメ出し会に変わってる。



「つまり音無くんは無自覚に女にだらしない」


「本当それ! 師匠はもっと誠実に!」


「優しいのは分かるんだけどね……」


 

 容赦ないダメ出しだ。


 自分の行動が、自分の意図していない風に捉えらている。


 これが僕の無自覚が招いた結果か。



「鳴、分かってることも分かってないことも有ったと思うけど、全部を自覚するなんて無理なのよ。鳴はそんなに器用じゃないしね」


「確かに師匠は不器用だ」


「音無くんも時枝には言われたくないと思うよ」


「でも、誠意ある行動の無自覚なら、好意的に受け取れることが多いの……だから焦らず、ゆっくりね」


 結局励まされた。


 ダメ出し会なんかじゃなかった……皆んな僕を励ますためにわざと。


「皆んな……いつもありがとう」


「「「どういたしまして」」」


 いくら無自覚な僕でも、最高の仲間がいることは自覚している。


 そして最高の彼女がいることも。



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