第115話 凛の覚醒
結衣さんの要望だからセッションを受けたものの……正直、今の凛が兄貴と渡り合うのは辛い。
でも、いつまでも兄貴の背中ばっかり追いかけるのもなんか違う。
音楽家としての実力差がまだまだあるのは分かっている。でも技術的には凛の方が上だ。
とにかく胸を借りるつもりで全力をぶつけよう。
兄貴とのセッションでやる曲は決まっている。凛が心を揺さぶられたあの曲だ。兄貴には内緒にしてたけど、ネットで探しだして暗譜してある。
凛がいきなりこの曲を弾き始めたら、流石の兄貴も面食らうだろう。
凛がゆっくりとイントロを弾き始めると兄貴はやっぱり戸惑っていた。
戸惑いに追い打ちをかけるように、兄貴にアイコンタクトでリードを譲る意思をしめした。
そして兄貴のリードが始まってすぐに異変に気付いた。
なんだろう……このシンクロするような感覚は? 兄妹だから?
凛の中からフレーズが溢れ出てくる……もしかしてこれが一流プレイヤーが経験するっていうゾーン?
兄貴のリードに導かれて溢れ出てくるフレーズ。今までの凛とは明らかに違った。
これならどんなリードが来ても大丈夫。曲をキープできる。
そんな凛の様子に気付いたのか、明らかに兄貴のリードが変わった。
決まった曲の中でこんなにも自由にリードが弾けるものなのか……鈍器で思いっきり頭を叩かれたような衝撃が走る。
そしていよいよ凛のリードだ。
不安だった。凛は壁にぶち当たっていた。……そんな状態の凛が、兄貴の伴奏でリードが取れるのか。
……でも、それは杞憂だった。
兄貴とのセッションで凛は覚醒していたみたいだ。
伴奏の時と同じく溢れ出てくるフレーズ。そのどれもが極上の旋律。
今の凛なら世界のトッププレイヤーとも肩を並べられるんじゃないだろうか。
きっと父ちゃんにも負けない。
兄貴が何か仕掛けて来たが、即興でハモリをいれて軽くあしらってやった。
いやだ、やめたくない……曲が終わってほしくない。
この最高の時をいつまでも……。
演奏が終わると兄貴が恨めしそうな顔で凛を見つめて笑ってた。
やっと兄貴に認められた気がした。
この演奏……兄貴とだからできたのだろうか?
日本に残ってよかった。
心の底からそう思えた。
————————
【あとがき】
凛はセッション中に覚醒したのでした!
次回更新は本日の22時00頃を予定しています。
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