第111話 新メンバー

「「お願いします!」」


 セッションが終わりしばらくすると2人に深々と頭を下げられた。


「窪田先輩、師匠、サポートでもいいので、是非お二人のグループに参加させてください!」


 時枝さんの僕に対する態度が180度変わった……でも師匠って誰だよ。


 衣織と顔を見合わせた。衣織は仕方ないなあって感じの顔をしている。


「私は別に構わないけど……うちの曲はアコースティックな感じが多いから、今みたいな激しい曲はほとんどないわよ?」


「「問題ありません」」


 さすがリズム隊。息がぴったりだ。


「鳴はどうなの?」


 子犬のような目で見つめられた。実力的にも申し分ないし、バンド形態になることで出来ることも増える。


「僕は全然オッケーですよ」


 断る理由がなかった。


「「ありがとうございます」」


「でも、師匠はやめてね」


「なんでですか? 師匠は師匠ですよ」


「いや、そういうのこそばゆいし、学年も同じだからさっきみたいな感じの方が嬉しいかな」


 時枝さんは敬語はやめてくれたが、師匠と呼ぶのはやめてくれなかった。穂奈美さんは普通に音無くんと呼んでくれた。




 ——部員のみんなが揃ったところで、改めて2人に自己紹介をしてもらった。


「1年の明石時枝あかしときえです。ベーシストです」


「同じく1年の菅沼穂奈美すがぬまほなみです。ドラマーです」


「彼女たちは、衣織のところに決まったからよろしく」


 結衣さんのひとことで男子部員の方々から刺すような目で見られた。その気持ちは僕にもよくわかる。



 そしてここで想定外の自体が……。


「これで音無が、ルナで活動すればギャルバンだよな」


 古谷先輩なんてことを仰るんですか……絶対にやっかみですよね……そしてこれから起こることは想定内だった。


「「え、どういうことですか?」」


「知りたい?」


 待ってましたとばかりに、結衣さんが小悪魔の笑みを浮かべる。


「「はい!」」


「鳴、覚悟はいいかな?」


「は……はい」


 この空気で抵抗しても無駄なので、僕は受け入れた。


「え——っ! 師匠がルナだったの?」


「びっくり……そして可愛い」


 そしてこの後、僕が鳴として活動すべきか、ルナとして活動すべきかの議論がなされた。


 多くの部員はルナ派だった。


 しかしメンバーである衣織、時枝さん、穂奈美さんが鳴として活動すべきだと主張してくれたおかげで、僕は無事、鳴として活動できることとなった。


 色々あったから衣織は味方になってくれると思っていたが、ルナがきっかけで入部してくれた2人が味方してくれるとは思っていなかった。


 部活イコール女装なんて絶対に黒歴史になる。


 本当に助かった。



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