第79話 男の子だから仕方ないじゃない

 凛のレッスンは厳しかった。僕が遊び呆けていた間も、凛は父さんにみっちりしごかれていたのだから厳しいのも当然だ。


 僕が1番苦労したのはリズム感だ。指は早い段階で感覚を取り戻していたのだが、リズム感だけはなかなか戻らなかった。


 凛曰く、なまじ指が動くから誤魔化そうとしている。もっと腹で、体幹でリズムを感じろと独特の言い回しで熱いアドバイスを送ってくれた。ありがたい限りだが、まだまだ時間がかかりそうだ。



 ——その一方で、衣織とは特にあれから何の進展もなかった。


 学業、部活、ギター。僕自身が多忙だってのもあるが、どうも衣織をいやらしい目で見過ぎてしまうことに罪悪感を覚えてしまい。意識的にそんな展開にならないようにしてしまうのだった。


「ねえ鳴、今日家に寄って行く?」


 凛は今日、母さんに会いにいっててレッスンは休みだが、衣織の家に行ってしまうとまた衣織をいやらしい目でみてしまう。どうしよう……。


 僕が迷っていると「何? 嫌なの?」衣織を不機嫌にさせてしまった。


「嫌じゃない! むしろ嬉しい!」


「じゃ、何でそんな難しい顔してるの? 今日はレッスンもないんでしょ?」


 これも正直に話していいのだろうか……と悩んだが。


「続きは……衣織の家でゆっくりと」


「うん!」


 とりあえず機嫌をなおしていただけた。


 ——今日の窪田家は佳織さんしかいなかった。学さんはプロジェクトが忙しく、しばらく帰りは遅いらしい。


「今日は邪魔しないからゆっくりね!」


「ちょっとママ!」


 佳織さんから妙なエールが送られた。


 こうなると余計に意識してしまう。


 僕は正直に話す決意を固めた。


「で、最近妙によそよそしいのは何なの?」


 衣織から切り出してきた。別によそよそしくしていたのではないが、そんな風に捉えられていたのならそれは大きな問題だ。


「いや、違うんだそうじゃないんだけど」


「そうじゃないんだけど?」


 やっぱりいざとなると言いにくい……。


 そもそもストレートに「つい、衣織をエッチな目で見てしまって」なんて……言ってもいいのだろうか。


「なんだ、そんなことだったの」


「そうなんだよ」


 って……え……。


「馬鹿ね、男の子だから仕方ないじゃない」


 またもや心の声が漏れてしまった。


「衣織……」


「それに私、彼女だしね」


 衣織はあっけらかんとしていた。


 今日も衣織に救われた僕だった。


 



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