一目惚れ

黒うさぎ

一目惚れ

 私が彼のことを初めて見たのは、母の葬式だった。

 歳は私より、いくらか上だと思う。

 喪服に身を包んだ彼は、静かに母の死を悼んでいるように見えた。


 専業主婦だった母は、いつものように買い出しへと出かけて、そのままこの世を去った。

 死因は運転中の事故だ。

 警察によると、即死だったらしい。


 両親と姉の4人家族だった私は、そのピースの内の1つを失い、心にぽっかりと穴が空いてしまっていた。

 だからだろうか。

 彼に一目惚れしてしまったのは。


 空いてしまった心の穴を埋めるように。

 本能が、代わりの誰かを探していたのかもしれない。

 私を愛してくれる誰かを。


 どうにかして彼のことをしりたかったが、身内である私が自由に動けるはずもなく。

 結局なにもわからぬまま、式場を後にする彼の背中を見送った。


 ◇


 次に彼を見かけたのは、父の葬式だった。

 父の葬式にも現れたということは、両親共通の知り合いだったのだろうか。

 どう見ても両親よりは若いので、父の勤める会社の部下か、知り合いの息子か。

 きっとそのあたりだと思う。


 葬式を取り仕切るのは、まだ若い私たち姉妹に代わって、親戚の人たちが行ってくれた。

 私たちができればよかったが、正直社会経験が無さすぎて、現実的ではなかった。

 だからといって、葬式を行わないわけにもいかない。

 仕方のないことだった。


 親戚の人たちが取り仕切ってくれたとはいえ、当然ながら私が自由に動き回ることはできない。


 結局、彼に直接声をかけることはできなかったが、収穫はあった。

 受付で記帳をする際に、名前が見えたのだ。

 住所も書いていたが、あの短時間では覚えることができなかった。

 帳簿の管理は親戚の人たちが行うので、確認も難しいだろう。

 だが、前回に比べれば進歩だと、前向きに考える。


 ああ、次も彼は来てくれるのだろうか。


 私は横に立つ姉のことをそっと見た。




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