第46話 飲む前に

 私とクラーナは、家に帰って来てから、早速お酒を飲むことにした。

 私達にとって、それは初めての体験である。その緊張感からか、ラノアがいない寂しさは少しだけ和らいでいた。


「とりあえず、一口飲んでみようか?」

「ええ……」


 そこで、私はあることに気づいた。

 そういえば、犬の獣人はお酒を飲めるのだろうか。確か、犬はお酒を飲んではいけなかったはずである。その性質は、獣人にも受け継がれているのではないだろうか。

 そう考えると、少し心配になってきた。既に飲もうとしているので、多分問題ないとは思うが、一応聞いてみた方がいいだろう。


「ねえ、クラーナ。犬の獣人はお酒が飲めるの?」

「ええ、別に問題なく飲めるわよ」

「でも、犬は飲めないはずだよね?」

「そうね。でも、犬の獣人は飲めるのよ。人の機能も備わっているから、犬が食べられないものも飲めないものも、問題なく飲食できるわ」


 クラーナの言葉に、私は少し感心した。

 獣人はすごい種族だと前々から思っていたが、改めてそれを実感したのだ。

 人間と同じように行動できて、犬とほぼ同じ能力が備わっている。ただの人間よりも、かなり優れた種族である。


「……もしかして、心配してくれたの?」

「え? あ、うん……」

「そうなのね……」

「え? クラーナ?」


 そこで、クラーナは私の膝の上に移動してきた。

 彼女もラノアも、基本的に甘えたい時はよくそこに移動してくる。

 ということは、彼女も甘えたいということなのだろうか。


「アノン……」

「あっ……」

「んっ……」


 予想通り、クラーナは私の唇を奪ってきた。

 私が心配してくれたことが嬉しくて、キスしたくなったようだ。

 私達は、しばらく唇を重ね合わせる。一度こうなると、しばらく終わらないのが、私達なのだ。


「んっ……」

「んんっ……」


 本題から逸れているが、そんなことは気にならなかった。

 別に、こうなることはいつでも大歓迎なのだ。人の目がある時ならともかく、今は誰もいなので、何も気にする必要はない。

 雰囲気だけで考えると、このまま溶け合ってもおかしくはないだろう。ラノアがいない寂しさによって、私達はいつにも増してお互いを求めている。そうなることも悪くないと思ってしまう。


「ふう……」

「はあっ……」


 一しきりお互いの唇を味わった後、クラーナは膝の上から隣へと移った。

 どうやら、今日は予定通り、お酒を飲むつもりらしい。少し残念な気もするが、元々はお酒を飲む予定だったのだ。その選択も、悪くないものである。


「さて、それじゃあ、飲みましょうか」

「うん」


 私達は、お互いにグラスをとってそれを合わせる。

 ぶつかり合う音を聞いた後、ゆっくりとそれを口に運んでいく。

 こうして、私達はお酒を飲むのだった。

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