第5話 三人でのボール遊び

 カーテンの隙間から差した光に、私は目を覚ます。

 隣には、ラノアちゃんとクラーナがいる。


「うん……」


 そこで、クラーナが声をあげた。

 どうやら、彼女も起きたようだ。


「おはよう、クラーナ……」

「おはよう、アノン……」


 私達は、小声で朝の挨拶を交わす。

 ラノアちゃんは、まだ寝ているので、起こさないようにしないといけない。


 こうして、私の三人での日々が始まるのだった。




◇◇◇




 私とクラーナとラノアちゃんは、家から出ていた。

 外で、遊ぶためである。


 今日は、依頼などには行かず、ラノアちゃんと過ごすことに決めた。

 ラノアちゃんを一人にするのも、なんとなく嫌だったし、まだ獣人の隠れ里が現れるまで、時間があるはずだからだ。


「それじゃあ、投げてみようか……」

「ええ」

「うん」


 という訳で、今日はボール遊びに興じる。

 私がボールを投げて、それをクラーナとラノアちゃんが、取りに行くという遊びだ。

 まずは、ラノアちゃんからボールをとるらしい。


「それ!」

「ワンッ!」


 私がボールを投げると、ラノアちゃんがそれを追いかけていく。

 まだ小さいが、獣人であるためかすごい身体能力だ。足が、とても速い。

 ラノアちゃんは、そのまま走りぬけて、ボール目がけて跳躍する。


「わっ!」


 しかし、ラノアちゃんはボールを捉えることができなかった。

 少し位置を見誤っていたのだ。


「クゥン……」


 地面に落ちたボールを口で拾い、ラノアちゃんが戻ってくる。

 その表情は、少し落ち込んでいるように見える。


「ラノアちゃん、そんなに落ち込まないで……」

「あっ……」


 私は、そんなラノアちゃんの頭を撫でてあげる。

 別に、ただの遊びなのだから、そこまで落ち込む必要はない。

 もっと、気楽でいいと思うのだ。


「アノン、次は私が行くわ」

「クラーナ? うん、いいよ」

「ラノア、よく見ときなさい」

「あ、うん……」


 そこで、クラーナがそんなことを言ってきた。

 どうやら、ラノアちゃんにお手本を見せるつもりのようだ。それなら、ここはクラーナに任せるとしよう。


「えい!」

「ワンッ!」


 私がボールを投げると同時に、クラーナは駆け出した。

 そのまま、ボールに追いつき、大きく飛び上がる。


「アウンッ!」

「わっ! すごい!」


 クラーナは、空中でボールを捉えた。

 その様子に、ラノアちゃんは声をあげていた。それも仕方ないだろう。

 なんとも、見事なキャッチだ。私も思わず見惚れてしまっている。


「クラーナ、流石」

「こんなものね……」


 戻ってきたクラーナは、私に撫でられながら、ラノアちゃんを見ていた。

 その視線は、次は貴方の番だとでも言いたげだ。


「ラノアちゃん、次行ってみる?」

「うん!」

「よし……それじゃあ、行くよ!」


 私の言葉に、ラノアちゃんは元気よく答えてくれた。

 その返事を聞いた後、私は大きくボールを投げる。


「ワンッ!」


 同時に、ラノアちゃんは駆け出していた。

 その速度は、先程までとは少しだけ違う。ボールをしっかりと見ていることから、調整していると予測できる。


「アウッ!」


 ラノアちゃんは、ボールが落ちていくのに合わせて、飛び上がった。

 今度は、しっかりとそのボールを捉えている。


「やったわね……」


 その様子に、隣のクラーナも満足げだ。

 犬の獣人の先輩として、ラノアちゃんの成長が嬉しいのだろう。


「ワン!」

「ラノアちゃん、よく頑張ったね」


 戻ってきたラノアちゃんを、私は撫でてあげる。

 今度は、とても嬉しそうだ。本当によかった。


 そのように遊びながら、私達は一日を過ごすのだった。

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