第89話 診療所にて

 私は、風邪を引いてしまったため、診療所に来ていた。

 クラーナの知っているお医者さんがここにいるらしいのだが、どんな人なのだろうか。


「ごめんください」

「はーい」


 クラーナが診療所の戸を叩くと、中から女性の声が聞こえてきた。

 その後、すぐに戸が開けられる。


「こんにちは、先生」

「ありゃ? クラーナか……」


 中から出てきたのは、綺麗な女性だった。

 白衣を着ているので、この人がお医者さんだろう。

 外見から推測するに、三十代くらいに見える。


「うん? そっちは確か、罪人の娘……」

「先生、この子、風邪を引いたのよ。診てもらえるかしら?」

「なるほど、大体わかった。それなら、早く入って」


 クラーナの言葉で、先生は何かを理解したようだ。

 私はクラーナに肩を貸されながら、診療所の中に入っていく。中は、普通の診療所であるように思える。


 ただ、私を罪人の娘と認識しながらもすぐに受け入れてくれたので、ただの診療所ではないはずだ。


「クラーナ、ここって一体?」

「ええ、ここは、私のような獣人でも診てくれる診療所よ」

「そうなんだ……」

「昔、診療所を探している時に出会ってね。それから、風邪を引いたりしたら、利用しているのよ」


 どうやら、ここは誰でも受け入れてくれる診療所であるらしい。

 中々珍しい診療所のようだ。


 こうして、私は先生に診てもらうのだった。




◇◇◇




 私は、先生に色々と診てもらった。


「風邪ね……」


 そして、出された結果はそんなものだった。

 大方の予想通り、風邪であるらしい。

 それでも、原因がわかったのはいいことだ。すごい病気であるという可能性もあったので、これは安心できる。


「まあ、薬を飲んで、ゆっくり休めば治るかな」

「そ、そうですか……」

「薬は出しておくから、朝昼夕と飲んでね。多めに出しておくけど、治ったら飲まなくてもいいわ。ただ、熱が下がらなかったり、不調がまったく治らなかったりしたら、もう一度ここに来てもらった方がいいかな」

「はい……」


 先生は、そう言って色々と言ってきた。

 要するに、薬を飲んで休めば良くて、治らなかったらまた来ればいいということだ。

 つまり、普通に風邪の処理である。それなら、ゆっくり休むとしよう。


「でも、まさかクラーナと同居しているなんてね」

「へ?」

「これからも、仲良くしてあげてね」

「えっと、それはもちろん……」

「先生、何を言うんですか?」


 そこで、先生はそんなことを言ってきた。

 もちろん、クラーナと仲良くはするが、ここでこんなことを言ってくるとは、どういうことだろう。


「だって、あなたが他人に対して、こんなになっている所、初めて見たもの」

「そ、それは……」

「あなたにも、本当に大切なものが見つかったのね」

「うっ……」


 どうやら先生は、昔のクラーナと比較してそう言ったらしい。

 面と向かってそんなことを言われて、クラーナの顔は赤くなる。それに釣られて、私の顔も赤くなっていると思う。いや、これは風邪のせいか。


「まあ、お大事にということで、しっかりクラーナに看病してもらってね」

「はい……」

「もう……」


 こうして、私の診断は終わるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る