第77話 胸に抱きしめて

 私はソファの上でクラーナを抱きしめて、頭を撫でていた。

 これは、クラーナがある女性に嫉妬したためである。


「クラーナ、そろそろ……」

「いえ、まだよ……」


 大分長い時間そうしているのだが、中々クラーナは満足してくれない。

 何度か呼び掛けても、この返しだ。


 そろそろ、夕食を作らなければいけない時間なのだが、クラーナは離れてくれない。

 これには、少し困ってしまう。


「ふむ……」

「あっ……」


 それとは別に、もう一つ、困っていることがあった。


 現在、クラーナは私の胸に顔を埋めている。途中から、クラーナはそれを楽しんでいるだけのようにしか思えない。

 その証拠に、時々私の胸を揉んでくる。別に嫌ではないが、少し腑に落ちない。


「クラーナ、本当はもう大丈夫なんじゃない?」

「駄目よ」

「駄目なの……?」


 それを指摘しても、クラーナはそう言ってくるのだ。

 なんでこんなに頑ななんだろう。


「ふむ……」

「ちょっと、クラーナ……」


 そんなことを考えている隙に、クラーナは胸を揉んでくる。

 やはり、ただ揉みたいだけなのではないだろうか。

 それなら、一度仕切り直してもらいたい。


「クラーナ、どうして揉むの?」

「揉みたいからよ」

「いや……」


 クラーナは私の質問に、即答してきた。

 そこまで自身満々に言われると、私が間違っているみたいだ。


「でも、あんまりそんなことされると……」

「大丈夫、そんなに激しくはしないから……」

「えっと……」


 確かに、クラーナはあまり大胆に揉んではこない。

 時々、軽く優しく揉むだけだ。

 だから、そういうことではないのはわかっている。だけど、揉まれている身としては少々言いたくなってしまう。


「それでも、なんとなく変な気になるというか……」

「……そうね、ごめんなさい」


 私がそう言うと、クラーナは謝ってきた。

 ある程度考えて、そう結論をつけてくれたようだ。


「クラーナ、もう大丈夫なんだよね?」

「……ええ」

「それなら、一回離れようか?」

「……そうね」


 そこで、私は畳みかけた。

 いつまでもこうしていたいが、そういう訳にもいかない。


 私の言葉に従い、クラーナがゆっくりと離れていく。

 ただ、その顔はかなり名残惜しそうだ。

 そんな顔をされると、申し訳なくなってくる。


「クラーナ、そんな顔しないでよ。食事の後になら、もう一回してもいいからさ」

「え? 食事?」

「あれ? クラーナ、もしかして気づいてなかったの?」

「……もうそんな時間だったのね」


 どうやら、クラーナは夕食の時間が近いことに気づいていなかったようだ。

 だから、離れようとしなかったのだろうか。


「初めから、そう言っていればよかったんだね……」

「……アノンは悪くないわ。気づかなかった私が悪いのよ。アノンの胸が心地よくて、時間を忘れてしまったわ。それに、大丈夫なのに大丈夫じゃないと言ったのも事実だし……」


 私の言葉に、クラーナはそう言ってくれた。

 やはり、途中から大丈夫にはなっていたようだ。


 ただ、私の言い方が悪かったのも事実である。

 それなら、二人とも悪かったということにしよう。


「まあ、今回は仕方なかったってことで。時間を忘れて安心できたなら、それは嬉しいとも思うし……」

「そう……?」

「うん、でも揉むのは待って欲しかったけど……」

「そうね……それは、ごめんなさい」


 色々あったが、これで問題は解決だ。


 こうして、私達は夕食の準備に取り掛かるのだった。

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