第54話 疑念は晴らされて
私とクラーナは、犬の獣人達が暮らす隠れ里に迷い込んでいた。
今は、サトラさんという人間にも理解がある人の家で、クラーナと一緒のベッドに寝転んでいる。
「さて、早速匂いを嗅がせてもらいたいのだけれど、その前に、一つ言うことがあるわ」
「え?」
寝転がってすぐに、クラーナがそんなことを言い出した。
一体、なんだろうか。
「何かな?」
「アノン、色々とあのサトラに言われたことを気にしていたわよね?」
「あ、うん……」
それは、クラーナの言う通りである。
確かに、私は今日サトラさんに言われたことで、色々と考えることになった。
人間と犬の獣人が、どちらかの世界で暮らすのは難しいとか、そんなことだ。
「それで、何を思ったのか、素直に言ってもらえるかしら?」
「えっと……クラーナは、もしかして、人間の世界では暮らしにくいのかなって……」
「……」
「だから、この世界の方が、クラーナにはいいのかなって、思ったよ」
クラーナに聞かれて、私は思わず素直に答えていた。
恐らく、それが、私にとって不安なことだったからだ。
クラーナにこちらの世界で暮らしたいと言われたら、とても悲しい気持ちになってしまう。
だから、確かめたくて、そう口走ってしまったのだ。
私の言葉に、クラーナはゆっくりと口を開く。
「……確かに、私にとって、人間の世界は暮らしにくいこともあるわ。昔の私なら、こちらの世界で生きようと思ったかもしれない」
「うん……」
「でも、今は違うわ。だって、アノンがいるもの……」
「クラーナ……」
「それだけで、私は人間の世界で暮らしたいと思うわ。こっちに同族が何人いたって、アノン一人いる方が、嬉しいもの」
クラーナの言葉は、私にとってとても嬉しいものだった。
その言葉だけで、私の心にあった迷いは全て吹き飛んだ。
「クラーナ、ありがとう」
「お礼を言われるようなことを言った訳じゃないわよ?」
私のお礼に、クラーナは笑ってくれる。
その顔を見て、私はだんだんと我慢できなくなってきた。
先程言葉をかけられた時から、私はクラーナが欲しくてたまらなかったのだ。
「クラーナ……その、キ、キスしても……いい?」
「……え?」
「駄目……かな?」
「いいわ。アノンからのキスを、拒む理由なんてないわ」
クラーナからの許可が出たので、私はゆっくりと顔を近づけていく。
そして、クラーナの唇に、自分の唇を重ねる。
「ん……」
「んん……」
すると、クラーナの舌が私の口内に侵入してきた。
それに対して、私は舌を絡ませていく。
なんだか、幸せな気持ちでいっぱいだ。
私達はしばらく、そんなことなどをしてじゃれ合うのだった。
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