第44話 朝の悪戯は

 日の光が、カーテンの隙間から差し込んでくるのがわかる。

 どうやら、朝が来たようだ。


 私は、ゆっくりと目を開ける。


「ん……」

「すー」


 すると、目の前にクラーナの顔が現れた。

 クラーナは安心したような顔で、すやすやと眠っている。


 かわいい。


「さて……」


 私は体を起こし、周囲の様子を伺う。

 時間的には、それなりに朝であるようだ。

 これは、クラーナも起こさなければならないだろう。


「うーん」


 しかし、クラーナは気持ちよさそうに眠っているため、あまり気は進まない。

 それにしても、可愛い寝顔である。


「よし……」


 私は再び寝転び、クラーナの頭をゆっくりと撫でていく。

 その顔を見ていると、思わずそうしたくなった。どの道、起こさなければならないので、問題はないはずだ。


「撫で、撫でと……」


 ふわふわの頭から、クラーナの温かさが伝わってくる。とても、いい触り心地だ。


「……クゥーン」


 クラーナは、気持ちよさそうに声をあげる。あまり、起きそうにはない。


「仕方ないか……」

「……クゥーン」


 仕方がないので、クラーナの弱点である耳の付け根を撫でていく。

 クラーナの様子が変わり、悶えるようになる。


「クゥーン」

「あれ?」


 しかし、クラーナからは起きる気配がまったくしない。

 結局、気持ちいいことには変わらないので、効果が薄いのだろうか。


 もう、いっそのこと声をかけてしまうべきかもしれない。


「うん?」


 そこで、私はあることを思いつく。

 ちょっとした悪戯のようなものである。


 私は、クラーナの耳に口を近づけていく。

 このかわいい犬耳に、息を吹きかけるのだ。


「ふー」

「キャンッ!?」


 耳に息を吹きかけると、クラーナが今までに聞いたことが無いような声をあげた。


「ア、アノン……?」


 そして、すっかり目を覚ましたクラーナは、少し怒ったような表情で、こちらを見てくる。

 どうやら、状況を完全に理解しているようだ。


「おはよう、クラーナ」

「お、おはようじゃないわよ! 一体、何を考えているのよ!?」

「いや、クラーナが中々起きなかったからさ」


 クラーナは私に近づいて、問い詰めてくる。

 流石に、怒ってしまったようだ。


「せっかく、いい夢を見ていたのに……」

「いい夢?」

「アノンに、撫でられる夢……」

「え!?」


 そこでクラーナから、そんな言葉が放たれた。

 撫でられる夢とは、少し気になるものである。


「どうしたのよ?」

「いや、耳に息を吹きかけるまでは、クラーナの頭を撫でていたから……」

「そ、そうだったのね……通りで」


 クラーナは私の言葉に、何か納得しているようだ。一体、どうしたのだろうか。


「さて、それはいいとして、アノンには罰が必要ね」

「え?」


 私が疑問に思っていると、クラーナが私の体を優しく押し倒してきた。

 急なことに驚いたが、この体勢が何をされるためのものかはわかる。


「アノン、朝からだけど、楽しませてもらうわよ?」

「あ、やっぱりそうなるんだ……」

「ええ、いいわよね」


 クラーナは、これから私にキス等をするつもりなのだ。

 これは罰にはならないが、受け入れることにしよう。

 

 だが、その前に一応謝っておかなければならない。


「クラーナ、ごめんね」

「ええ、いいわよ。そんなに怒ってないし」

「あ、うん……」


 薄々勘づいてはいたが、クラーナはあまり怒っていなかった。

 あのくらいで怒る程、クラーナは器が狭くないのだ。


「……やっぱり、顔を洗ったりしてからにしましょうか? 寝起きは色々あれよね?」

「え? あ、まあ、いいけど……」


 恐らく、クラーナはエチケットなどを気にしているのだろう。

 顔を洗っても後であれなのだが、それは言わないでおく。


 こうして、私とクラーナの一日が始まるのだった。

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