第22話 食事中にそんなことを?

 私が、台所に行くと、クラーナは既に料理を作り終えていた。


「あら、来たのね。丁度よかったわ」

「う、うん、今日もありがとうね、クラーナ」

「いいのよ、そんなこと」


 考えないようにしようと思ったが、クラーナの顔を見るとやはり意識してしまう。

 エプロンを身に着けたクラーナは、とても可愛らしく魅力的だ。


「何? こっちを見て……」

「い、いや、なんでもないよ……」


 思わず見惚れてしまい、クラーナに注意されてしまった。

 やはり、考えないようにした方がいいようだ。


「うん? まあ、いいわ、座って。昼食にしましょう」

「あ、うん……いただきます」


 クラーナに促されて、私は席につく。

 なんだか、クラーナは上機嫌だ。


「なんだか、上機嫌だね?」

「ええ、それは……その、楽しかったから……」

「あ、ああ……」


 クラーナは頬を赤くしながら、そう言った。先程のことを言っているようだ。

 確かに、楽しかったので、上機嫌になるのも頷ける。


「……そ、それじゃあ、スープでいいわよね」

「あ、うん」


 クラーナは話を遮り、スープをスプーンですくった。

 流石に、食事中にその話をするのは、恥ずかしかったのかもしれない。


「ふー、ふー」


 熱いスープを、クラーナが冷ましてくれる。

 私の視線は、クラーナの唇に向く。あの唇と先程までキスしていた。その事実が、私の顔に熱を帯びさせる。


「はい、あ、あーん」

「あ、あーん」


 クラーナは心なしか照れながら、私の口にスプーンを運んだ。

 私は口を開け、それを受け入れる。


「どう?」

「うん、とってもおいしい」


 やはり、クラーナの作る料理は絶品だ。とてもおいしい。

 私が、スープを飲むと、スプーンが口から離れていく。


「……」

「クラーナ?」


 そこで、クラーナの手が止まる。

 スプーンを見つめて、じっとしたのだ。


「あ、いえ、なんでもないわ……」


 そう言いながら、クラーナはスプーンを置く。

 私はそれで、クラーナの考えを理解する。


「同じスプーンで、いいよ?」

「え?」

「新しいの、とって来ようとしたんだよね? でも、同じでいいよ? 私は……」


 クラーナは、スプーンを替えようとしたのだ。

 同じスプーンで、自分が食べるのはまずいと思ったのだろう。


 クラーナの口内は、先程散々味わった。唾液だって飲んだ。今更そんなことを気にする必要はないと思った。


「駄目よ……」


 しかし、クラーナはそれを否定する。

 もしかして、クラーナの方が恥ずかしいのだろうか。

 今更間接キスを気にするとは、クラーナの羞恥心はわからないもののようだ。


「興奮してしまうわ……」

「え?」


 だが、クラーナの口から放たれたのは、そんな言葉だった。

 どうやら、羞恥心とかではなく、興奮するからという理由のようだ。


 つまり、自分を押さえられなくなるということか。それは、もうどうしようもない。


「なら……持ってきた方がいいね」

「ええ……」


 私の言葉で、クラーナは席を立ち、近くの棚からスプーンを出す。

 これで、普通に食事できそうだ。

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