第2話 犬耳少女は寂しいようだ

 私は、助けてくれた獣人の少女に少し驚いたが、すぐにお礼を言うことにした。


「あ、ありがとうね。助けてくれて……」

「別に……助けたつもりはないわ」


 獣人の少女は、明らかに私を警戒している様子だ。


「それでも、あの矢がなかったら、死んでいたかもしれないし……本当にありがとう」

「そう……まあ、いいわ」


 獣人の少女は、ゆっくりとデビルベアの死骸に近寄っていく。

 恐らく、皮などをはぎ取って、ギルドで換金してもらうつもりなのだろう。

 とりあえず、私も近寄ってみる。


「何?」

「あ、いや……私はアノンっていうんだ。あなたの名前は?」

「……クラーナよ。それで何の用かしら?」


 名前はクラーナらしい。

 クラーナは、怪訝な表情で私を見つめてくる。

 そこまで警戒する理由を、私はここで理解した。


 世間の獣人への扱いは、あまり良くない。

 絶対数の多い人間から、汚れた種族といわれ、よく蔑まされているのだ。


 だから、人間の私を通常以上に警戒しているのだろう。

 だが、私は獣人だからって差別はしない。


「クラーナ、解体するなら、私も手伝うよ」

「……分け前が欲しいという訳ね。いいわ、半分はあなたの手柄だもの」

「そういう訳じゃないさ。それに、命を助けられたんだし、手柄は譲るよ」

「ふうん……」


 私の言葉に、クラーナは眉をひそめた。

 やはり、そう簡単に警戒を解いてくれないようだ。

 まあ、それも当然か。


「隣、座るよ」

「好きにすれば」


 冷たく言い放されたけど、隣に座ってみる。

 その後は、ほぼ無言で解体を進めていった。




◇◇◇




「よし、これでいいね。ギルドに向かおうか?」


 解体が終わり、私はクラーナにそう話しかけた。


「……ギルドには、私一人で行くわ」

「え? 運ぶの大変だろうし、手伝うよ?」

「……私に関わらない方が、いいわよ」


 クラーナはそう言って、私を拒絶する。

 だけど、私には、その表情が変わったのがわかった。

 今の言葉を言うのに、どうしてこんな苦しそうな表情をする必要があるのだろう。


「どうしたの……?」


 だから、私は思わず、そう聞いてしまった。

 すると、クラーナは驚いたように目を丸める。


「何が……言いたいのかしら?」

「えっと……」


 少し怯んでしまったが、この際全部聞いてみよう。

 そう思って私は、クラーナにその疑問をぶつけることにした。


「なんだか、とても苦しそうだったから、どうしたのかと思って」

「苦しい……? そんなはずはないわ。私は、一人が好きなんだから」


 違う。

 そんな顔をしてそんなことを言われても、何も説得力はない。


「何か、理由でもあるの?」

「……獣人は、皆から嫌われているわ。あなたも、私といると何を言われるかわからないわよ?」

「……そんなこと、私は気にしないよ」


 私は、獣人だからといって差別することなんてしないし、誰にどんなことを言われたって、気にしない。

 

 私達のことを何も知らない奴らに、どんな評価をされたって気にするものか。


「生まれがどんなだって、関係ある訳ないんだから」

「あなた……」


 クラーナの手を取りながら、私はそう言っていた。


「私だって……そんなにいい噂は立たないし」

「え?」

「罪人ガラン、それが私の父親の名前」

「ガランって、あの……」


 私も、その親の元に生まれたというだけで、差別されてきた身だ。

 だから、クラーナの思いを、少しくらいなら理解できる。


「むしろ、私の方こそ、一緒にいると後ろ指をさされるかもね。それが嫌なら、仕方ないけど」

「そんなことは……!」


 クラーナは、語気を強めてそう言ってきた。

 私を助けてくれた時からわかっていたが、優しい子だ。


「こう言ったらなんだけど……はみ出し者同時、一緒ってことで」

「……それだと、いい話にならないわね」


 私の言葉に、クラーナはやっと笑ってくれた。

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