学校生活が始まったと思ったら、秒で喧嘩を売られた男
「武闘家のカオルです。父親と五年間修行の旅をしていました。強さだけが取り柄です。ほかのことは何も出来ねえけど・・・よろしくおねがいします。」
総勢四十名のクラスメイトを目の前にして、まずまずの自己紹介だ。
「おや、頼もしいね。みんなカオルくんと仲良くするように。」
初老の女性武闘家がこのクラスの担任だ。名はナイラ。長い黒髪のポニーテールがトレードマーク。カオルの腕前は事前情報があったようで、教師達に根掘り葉掘り聞かれた。一目置かれていると思う。
生徒の方はと言えば、とくに歓迎のムードも無く、カオルは手持ち無沙汰な気分で席に着いた。クラスは科学者と武闘家をあえて織り交ぜている。
私たちは同じクラスになった。
「ナイラ先生。」
ガタンと席を立ち、手を上げる者が居た。彼の名前はハオ。
「なんだい委員長。」
ナイラの言った通り、彼はクラス委員長。この学校ではクラス一の強者が委員長となる決まりなのだ。ハオはシルクロードを超えた先の大国からやってきた。緑色の民族衣装を身にまとっている。容姿端麗な上、実家は貿易業を営んでいるとかで、クラス一・・・もしかすると学校一、女子の注目を集めているかもしれない。
ハオはメガネの淵に手を掛け、カオルを睨みながら言った。
「委員長は、クラスで一番強い者がその責務を負います。転入生が入ったのならば、今、僕がこのクラスで一番強いかどうか、不確かなものとなりました。違いますか?」
「違わないよ。」
「僕はそういった不確かなことは嫌いです。彼と勝負を申し込みたい。」
ナイラは満足そうに頷いた。武闘家の若者が好戦的に育つことは、教育指針にて求められている。彼女は教師として立派に職務を全うしている。
「カオル、どうする?」
「断る理由は無いな。」
「だそうだよ、委員長・・・いや、この瞬間から委員長じゃないね。役職名で呼ぶのはよそうか、リ・ハオ?」
「もちろんそうしてください先生。」
ハオは敵意を持ってカオルを睨み付けている。一体どうしたというのだろう。ハオは基本的に冷静なイメージだったのだが。
カオルがどれだけ状況把握しているかは怪しいが、兎に角負けじと睨みつけているので笑いそうになってしまった。いけないいけない。
「転入生、怪我するだけじゃねえの? ハオには勝てねえよ。」
何処からか飛んでくる野次にカオルはむっとする。クラス全員がカオルを舐めるように見ながら、ニヤニヤと笑みを浮かべている。転入生に対する疎外ムードってやつだろうか。まったく武闘家の連中は子供じみている。
「おいアーシャ、委員長って、強いのか?」カオルは私にそう尋ねた。
クラス中がざわめく。
「ちょっとアーシャ! この子と知り合いなの?」と、友人のオリガ。金髪が豊かで、はちきれんばかりの胸部(ことわっておくが私の胸部は普通である。大きくも小さくもない)。容姿端麗な武闘家と言って差し支えないだろう。
美しいからと言ってあなどるなかれ。彼女のふとももは私の胴くらいある。まさに鋼鉄。塀に穴をあけたところを見たことがある。一度触らせてもらう価値ありだ。ものすごく男好きなので、時々トラブルを起こしている。
「彼にはイイコが居るかしら? それともアーシャ、あなたが・・・」
ウフフと不敵な笑みを浮かべている。不気味だ。
私は無言で彼女を睨みつけた。この手の話題は得意じゃない。
「オリガさんの言っていること、あながち間違っていないかもしれませんよ。」
急にハオが会話に入って来た。彼まで乗ってくるとは。まったく予想外だった。
「詳しく教えてよ、アーシャ!」クラスメイトたちは一気にヒートアップした。面倒だ。
ナイラは大声で静めようとするが効果が無い。
教育指針では、武闘家科学者共に、気を取り乱してみだりに馬鹿騒ぎする事があってはならない。矯正の必要がある。ナイラは怒鳴るのをやめ、実力行使に出ることにした。
ナイラの実力行使・・・その甲斐あって次の瞬間、教室は確かに静まり返った。
合計して五十本程の刃物が、生徒に向かって放たれたからである。私は心の底からナイラに感謝した。今まさに秩序が保たれている。心地がよい。
「ナイラ先生、いきなり危ないじゃないですか。」
生徒数四十名。その中に武闘家と科学者半数ずつ。武道家達が、ナイラより放たれた刃物を素手もしくは教科書、椅子等を使って、受け止め、また、振り落としていた。
「科学者まで狙うのはやめて下さいよ。面倒くさいんで。」
誰かがクレームを出した。ナイラはその生徒を指差して言った。
「お前、何のために鍛えてる?」
「国と科学者を守るためです。」
「だとすれば、なぜそんな言葉が出るんだい。」
「・・・すみません。」
生徒達はすごすごと片づけを始めた。
その間も、カオルとハオは睨み合っていた。
私はは過保護にも、元委員長と期待の転入生、二人に守られている状況だった。有難いやら恥ずかしいやら。
ハオはナイフを片付けた後、カオルを一瞥し、何事も無かったかのように「委員長決定戦」の場所と時間を指定する。
ナイラの手前生徒達は静かにしていたが、私には分かる。皆、楽しいお祭りが始まるとばかりに、浮き足立つ気持ちを抑えられずソワソワしているのだ。こんな娯楽は滅多に無い。ある意味ではカオルを歓迎していると言えるだろう。
良かったと言えば良かったのかもしれない。
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