Journey with Mermaid EP.7 浮き輪(フロート)

フロート1-1

 ふと気付けば、もう朝。


 途中で起きることもなく、夢も見ずに寝ていたらしい。

 視線の先には黄色がかった中庭の壁がよく見える。横にいたメアリの姿はない。

 ベッドの上にはブランケットと上着がある。頭上のプールから水が波打つ音が聞こえる。ああ、泳いでいるのか。


 確かに暑い。

 仰向けになると日差しが目に入る。陽の高さからして、もう昼前らしい。

 手で日差しを遮るが何の気休めにもならない。このままだと丸焼きになる。

 そのうめき声に気付いたのか、プールからこちらを伺う影が現れる。メアリだ。


「やぁ、ジェイ」

「おはよう、メアリ」

「そっか、起きたら“おはよう”なのね」


 メアリは“ふむふむ”と頷く。

 挨拶あいさつ概念がいねんは知っているのかと思ったが、彼女は“そういうもの”とだけ理解したらしい。意思疎通は動物同士にもあるから理解できた――という事だろうか。


 プールから上がったメアリは軽く髪を振って水を飛ばす。

 その飛沫が私にも飛んでくる。


「あっ、ごめんなさい」

「暑かったから丁度良かったよ」


 メアリは目を瞑る私を見て、しまったと思ったらしい。

 この咄嗟とっさの対応は何の違和感もない。とても自然だ。


 これも彼女には、“そういうもの”という理解なのだろうか。

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