人魚姫2‐4

 照り返す日光はまばゆい。

 たまらず顔を横に逸らす。


 ふんわりとした感触が顔を撫でる。

 艶のある栗色の髪。ウェーブのかかった髪は幾重いくえの色を含んでなびく。


 見惚れているうちに青い瞳が振り返る。

 その瞳に気付くと人魚姫は首を傾げる。

 彼女は幻ではなく、今も目の前にある。


 人魚姫を近くのベンチに降ろす。

 このベンチは建物の壁が背もたれ代わりになる。彼女が寄りかかるのにも良いだろう。ベンチに腰掛けると正面には先程までいた広場の穴。

 彼女はそちらをじっと眺めている。今、何を思うのだろう。


 しばらく何もない時間が過ぎてゆく。

 空は快晴。聞こえるのは風の音。


 陽が登るにつれて暑さが増す。人魚姫は大丈夫だろうか。

 彼女の肌は白そのもの。海水だけでなく日差しにも弱いかもしれない。

 日陰に避難すべきか。


 そちらを見れば、彼女もこちらを向いている。

 階段の時と同じ。何かを伝えようとする瞳。

 分からない。だが、何かある。


 人魚姫は距離を詰めると私の右手を持ち上げる。

 彼女を助けるときに噛まれた手だ。

 彼女は怯えるような顔でこちらをもう一度見る。

 そして彼女は私の手を噛んだ。

 

 包帯を削るように。

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