人魚姫2‐2


 人魚姫を水路へ上げるべく持ち上げる。


 彼女の人魚としての下半身は持ち上げる際のバランスが難しい。

 それでも少し持ち上げたところで、彼女自身が手を使って登り始めてくれた。

 ただ、その下半身で大きな段差は厳しいようだ。支えているだけでは上がれないようなので、人間なら膝上と太ももにあたる部分を押しながら彼女を上にあげる。

 人魚姫が水路に登りきった際、彼女の下半身側の肌が頬を滑るように登っていく。

 その質感はヘビのような滑らかで冷たい感覚。鱗のせいだろうか。


 登り切った彼女がほっと一息ついているのを見る限り、彼女は意図せず広場下に閉じ込められてしまったのだろう。


「さてと……?」


 荷物を取りに戻ろうと顔を下げたが、その前にひらひらと何かが目に映る。

 ふと見上げれば、人魚姫が私に手を差し伸べていた。


「いいのかい?」


 そう尋ねたが、彼女は口を結んだままで何も言わない。表情も不安そうではある。

 それでも差し伸べた片手を戻すことはない。さらに私へ手を伸ばす。

 私はその手を握ると、残る手足で壁を登る。


 彼女の引き上げる力は弱く、体力を消耗したままなのだろう。

 それでも彼女は誠意として、私に手を差し伸べてくれたのだ。

 私は人魚姫の手を握ったまま登りきると、彼女の手を自分の両手で包むように添えて心よりの感謝を伝えた。


 思いついたのは、「ありがとう」という一言だけ。

 その言葉を聞いた彼女は、穏やかな表情で小さく首をかしげた。

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