人魚姫2‐1


「あ、その……」


 腕の中の人魚姫に何を言っていいのか分からない。


 彼女はブランケットを胸元で強く掴み、不安そうな顔でこちらを見上げている。

 いつから起きていたのだろう。運んでいる途中?その前から様子を伺っていた?


 不安そうではあるが、吸い込まれるように美しく青い瞳は目を逸らせなくなる。

 彼女に睨まれているのか、あるいはもともと釣り目気味の目尻なのか。細目寄りの目元ではあるが、それも手伝って瞳が大きく感じる。近くで顔を合わせるとその瞳へ魔法のように視線を合わせてしまう。


 人魚姫が視線を外す。

 その後、視線をこちらの顔より下に移してから、困惑気味に視線を右へ左へと泳がせる。さすがに見つめた過ぎた。


「ごめん……ね」


 大急ぎで丁寧に謝罪する。

 その言葉がどの程度伝わったかは分からない。

 ただ彼女はもう一度こちらに視線を合わせると、小さく頷くように見えた。


「いいかな。あの……向こうへ君を運ぼうと思ってね?」


 そう言って顔を水路の方へ向ける。もう一度彼女と視線を合わせてアイコンタクトで水路の方を見てほしいと促す。

 人魚姫は少しこちらを見つめたあとに水路の方を見る。しばらくそちらを見続けていたが、こちらに向き直ると彼女は片手をそちらに伸ばす仕草をした。

 こちらの反応を待つような人魚姫。


 了承してくれたのだろうか。

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