Journey with Mermaid ~人魚姫と終末旅行~
八雲ヨシツネ
X-X 旅の途上で
ふと気になった場所へ立ち寄る。マップによると泉が点在する地域のようだが、実際に確認しなければ分からない。
「ジェイ!この泉、魚が泳いでる!」
そばにいたはずの〈人魚姫〉は、いつの間にか泉の前をふよふよと漂いながらはしゃいでいる。魚がいるのなら安全な水だろう。こちらがそう思う間にも彼女は泉に飛び込む。
しばしの静寂のあと、水面から勢いよく人魚姫が飛び出す。
「この水、痛い!」
確認もせずに飛び込んだ彼女に呆れつつも駆け寄る。泉から彼女を抱え上げると彼女の白い肌がまだらに赤い炎症を起こしている。
だとすると、この泉は真水ではないのか。試しに泉の水を舐めてみると確かにしょっぱい。だが、塩辛いというほどでもない。真水と海水の中間、汽水だ。
「確認は大事。溺れても知らないぞ」
「でもほら、何かあったら助けてくれるんでしょ?」
「気付かない場合はどうするつもりなのか……」
その言葉に対し、えへへと彼女は
彼女は人魚だが海では泳げない。真水でないと今みたいに肌を痛めてしまう。さらに海水のような刺激の強い水になると、激痛で泳ぐこともままならず溺れてしまう。とても繊細な人魚姫なのだ。
「ねぇ、なぜ陸地なのに海の水が?」
「海が近いからかな。海と繋がるトンネルがあるのかも」
「ふうん……。こういうこと?」
そう言うと彼女は泉に引き込んでくる。それに抵抗できず泉に落ちる。
無数の気泡の中で目を開けると、そこは水面からは想像もつかない巨大空間の中であった。前後どちらにも奥へ奥へと水中洞窟が続き、そのトンネルにはスポットライトのように陽の光がいくつも差し込んでいる。
ああ、そうか。泉は水中洞窟の天窓なのか。きっと海までこのトンネルは続いているのだろう。水面から覗く空は向こうも水中かのように澄んでいる。
泉から上がった際に「肌が痛むんじゃないか?」と人魚姫に尋ねたが、彼女は「まだ大丈夫」と涼しい顔で言うが、彼女の炎症は先程よりも広がっており、見ていて痛々しい。
気になるので水筒の水を頭からかける。肌についた塩分を少しでも洗い流せば炎症を和らげる事ができるはず。
ただ、全て洗い流すべきだから、ここは一時撤退。また来よう。
不意に人魚姫と視線が合う。
だがその表情は、瓜二つの別人が悪巧みでもするかのような笑みだ。
驚いて硬直するこちらの反応に満足したのか、彼女は「
彼女が“博士”に会ったことはない。こちらの記憶から模倣しているだけ。
この世界に2人だけ。旅はこれからも続く。
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