愛しのコロロと約束のC(前編)
私のかわいいコロロッチェ。
「ほら先輩、夏の雲」
あなたはそう言って、坂の上から空を指差した。あなたが見たもの、私も見た。
青い空にもくもくと聳える入道雲。真っ白で、ふわふわで、山のように重たい。
比類なき、夏。
「夏ですねえ」
「夏ね」
楽しいものを知ってるみたいに、あなたは夏を唄う。きっと、あなたの夏はあの入道雲みたいに、もくもくと、ふわふわな、楽しいことの詰まったものなのでしょう。
私とあなたはまるで逆。
なのにあなたは、ただ学生寮で相部屋になったというだけで、先輩である私の手を引っ張るように、夏の空の下へ連れ出した。
「お願いがあるんです」
小っちゃな顔にくりくりの大きな目。すらりとした体の内に太陽の生気。その瞳からまともに光を浴びせられたら、日陰者の私はひとたまりもなく承諾してしまう。
コロロッチェ。あなたは不思議な人。
「どこに行くの」
「お買い物です」
フン、フンと鼻歌を交えて、コロロッチェはこの町を歩いていく。私は黙ってついていく。女の子のなかには、誰かと連れ立ってでないと買い物はおろか、トイレにさえ行けない人もいるけれど、コロロッチェはどうみてもそんなタイプではない。寮から下る坂の上で雲を指差したきり、私のことなど忘れたように、ひとり楽し気にポニーテールを翻している。私は無理におしゃべりを続けようとせず、ただ押し黙って、こんなかわいい子を連れ歩ける喜びに浸っていた。
自分の魅力を振りまいて、誰彼問わず思いのままのコロロッチェ。最初、あなたが私の部屋にやって来た時、正直私は怖かった。同じクラスにいたら苦手なタイプだと思った。けれど、あなたの中の太陽は瞬く間に、私の臆病な雲を取り去ってしまった。気高い女子の集団で、気づけば誰もが、あなたに一目置いていた。
そんなあなたを独り占め。
夏の寮は寂しくて。閑素な町は清しくて。
でも、あなたの頭の入道雲があんな企みを抱いていたなんて、思いもしなかった。
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