第6話ナウシカ視点
「アデーラ、料理の準備はできているかしら?」
「大丈夫でございますよ、お嬢様。
先ほどお嬢様自身で確かめられたではありませんか」
「そうなのだけれど、ルーカス王太子殿下が直々に食べに来られるのです。
慎重の上にも慎重を期さないとね」
ルーカス王太子殿下は、私の、シンクレア伯爵家の恩人です。
名誉を護ってくださったばかりか、莫大な賠償金と豊かで広大な領地をもたらしてくださいました。
しかも私の料理屋の共同オーナーになってくださったのです。
試食会でもあるお礼の歓待に、力は入るのは当然なのです。
余裕がある振りをしている乳母のアデーラも、内心は戦々恐々としています。
それもそうでしょう。
ソルトーン侯爵家とグレイ男爵家に対する苛烈な処断を見れば、恐れない方がどうかしています。
エーミールが愚かな事をしたソルトーン侯爵家は、莫大な賠償金を支払うことになり、領地も九割を割譲することになりました。
残された領地も、強制的に乾燥地帯の辺境に転封させられ、家格も子爵家に落とされることになりました。
ソルトーン侯爵は隠居ですみましたが、事の発端となったエーミールは勘当追放になった後で、子爵家を継いだ弟のビクターに殺されたという噂です。
あくまでも噂ですが、貴族たちは事実だと思っています。
一方黒幕だったグレイ男爵家令嬢のテレーザは、その場で逮捕され激しい拷問の末に全て白状させれ、その後処刑されました。
罪状は国家転覆罪だそうです。
ちょっと強引な気がしないでもありませんが、王家王国を騙そうとしたのは確かですし、激怒するルーカス王太子殿下に諌言できる者など一人もいません。
誰だってこの陰謀に加担していたとは思われたくないですから。
グレイ男爵家には、即日近衛騎士団が当主ヤクブを逮捕に向かいました。
ですが男爵邸にヤクブはいませんでした。
元々大陸をまたぐ大商人です。
莫大な献金によって男爵位を得ましたが、その本質は商人です。
キャンベル王国にあるグレイ男爵家など、支店の一つでしかないのでしょう。
ヤクブは他国で悠々としています。
ですが、ルーカス王太子殿下がグレイ男爵家から手に入れた資産は莫大です。
ソルトーン侯爵家から手に入れた財産の数十倍だと、社交界では噂されています。
大陸中の国々に支店を持ち、別の大陸にまで大船団を派遣しているヤクブが、キャンベル王国に持っていた全財産を接収したのですから、それも当然かもしれません。
ですが今はそん事はどうでもいいことです。
私が気にすべきは、公正苛烈なルーカス王太子殿下に認めていただける美味しい料理をだすことです。
殿下が大食漢で肉好きというのはリサーチ済みです。
問題はまだ私がこの世界の食材の特色を調べ切っていないという事です。
今は料理人の腕を信じ、私のアドバイスを利かしてくれることを願うだけです。
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