第2話王太子ルーカス視点

「シンクレア伯爵家令嬢ナウシカ!

 この恥知らずの腐れ女郎!

 貴族の誇りを持たず、目下の者を虐めるとは、なんたることか!

 そのような愚劣な者を、我が妻に迎えることなどできん!

 本日只今、この場において婚約の解消を申し渡す!」


 信じれれない!

 こんな幸運が訪れるなんて、これは神のご加護か?!

 私が初めて恋した女性が、婚約を解消された!

 これで誰はばかることなく結婚を申し込むことができる。

 国王陛下や王妃殿下からどれほど責められても、婚約を断り続けてきてよかった!


「キャァァァァア!

 ナウシカが、ナウシカが大変!」


 腐れビッチのテレーザがわめいている?

 お前がエーミールと好い仲になって、侯爵夫人の座が欲しくて、ナウシカを陥れようとしていたのは分かっていた。

 まさかエーミールが甘言に惑わされるとは思わなかったが、私にとってはこれほどの幸運はないのだから、見逃してやる。


 だがナウシカが大変とはどういうことだ?

 なん、だと?

 ナウシカが胸を押さえて苦しんでいるのか? 

 冤罪をなすりつけられて、皆の前で婚約破棄を言われたショックで、心臓に負担がかったのか?!


「どけぇい!

 そこをどかぬと殺すぞ!

 侍医を呼べ!

 いや、私が直々に運ぶ!

 どけと言っておろうが!」


 すまない!

 私が悪かった、ナウシカ!

 私が腐れビッチのテレーザ止めていれば、こんな事にはならなかったのだ!

 あわよくばナウシカが婚約解消されればいいと願った、この私が悪いのだ!

 どかぬのか?!

 腐れビッチのテレーザは、救助の邪魔をしてナウシカを殺そうとしているのか?!


「ナウシカを殺そうとする者は許さん!

 死にさらせぇい!」


「ウギャァァァァアッァ!」

「ヒィィィィイ!」

「お許しを!

 お許しください、王太子殿下!


 腐れビッチに相応しい醜い断末魔だ!

 我が行く道を阻むモノは殺す!

 ナウシカを殺そうとする者は許さん!


「大丈夫か?

 しっかりするんだナウシカ!

 私が必ず助ける!

 これを口に含むんだ!」


 我が失態は自分で取り返す!

 王太子に与えられる特別な護りを使っても!

 いざという時に生き返る事のできる、王家の秘宝を使ってでも!

 ナウシカは助けてみせる!

 いや、この命を失うことになろうとも、ナウシカを助けてみせる。


 まだ間に合うはずだ。

 口に含ませた秘薬は、死にゆくはずの者を仮死状態にとどめるモノだ。

 首にかけて胸の位置に置いた魔道具は、心臓を強化して助けるモノだ。

 私が抱きしめている間は、呪殺の呪いを中和する魔道具の結界の中に入る。

 死んだテレーゼが呪殺を図っていたとしても、助けられるはずだ!

 

 

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