第11話
弁護士に依頼して数週間が過ぎた。
その間は今までに増して動画の投稿を増やしている。
新しいコメントで墓穴を掘って欲しいのもあるが、収入的な問題もある。
何をどうしたって専門家に頼むのはかなりの金額になる。今までの動画収入が全部消えるくらいだ。
妻は最初の無料相談に行った後から、度々、動画投稿を止めるようにと言ってくる。弁護士に依頼した以上は元を取りたい。その気持ちと、ここで止めても別の仕事が見つかるのかという不安があって止めるという選択は取るつもりがない。
動画を作るのも、求人情報を調べるのも、弁護士に連絡を取るのも、全てパソコンで済むから誤魔化すのも難しくはない。
誤魔化すと言えば、弁護士に正式に依頼したこともバレてはいない。
もしかしたら、何か気づいているのかもしれないが、少なくとも面と向かって問い質されてはいない。話に出るのは動画を止めろという事だけだ。
暴言を書き込むユーザーは相変わらずだ。
最近になってまた増えた。
コメントは増える度にスクリーンショットを撮って保存している。弁護士に渡すのは、最初に個人情報を書き込んできたユーザーの分だけだが、今後、どのユーザーが行為をエスカレートさせていくか分からない。保険のために保存している。
弁護士に渡すユーザーが一人分だけなのは、開示請求を掛けているのが一人だけだからだ。複数人を相手にするなら、その分の費用が必要になる。今後は分からないが、まずは個人情報を握っている「知り合いの誰か」を突き止めたい。
そしてある日、弁護士からのメールには動画サイトへの開示請求の仮処分が認められたとあった。
一歩前進。
動画サイトから接続情報が開示されたら、次は接続元のプロバイダに対する開示請求だ。
動画サイトへの開示請求が認められた以上、プロバイダへの開示請求も認められる可能性は高い。念のためにコメントのスクリーンショットは続けるようにとの指示があった。
「もう、止めてよ! 無理はしないでって言ってるじゃない!」
夕食の席に妻の言葉が響く。
なぜだろう。暴言コメントへの対処は順調だ。もう少しで相手の素性も分かる。
動画の再生数も順調に伸びている。投稿頻度が上がったのが良かったのか、これなら弁護士費用に消える分を稼ぎ直すのにも、それほどの期間はかからないだろう。
それなのに、ここで止めれるわけがない。
妻の帰りは以前よりももっと遅くなっている。最近の妻の言葉は幾分に感情的だ。
その日は妻を宥めるだけで日付が変わった。
度々、動画はもう止めて、自分が養うから、と言われた。気持ちはうれしいが、こんなに疲れている妻に全てを背負わせるわけにはいかない。動画で稼げば、妻が仕事を止めても食べていけるはずだ。妻が無理をしないように、しなくて済むように。俺がなんとかしないと。
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