第2話

「用意できたぞー」


 妻に一声かけて夕食を並べる。

 料理は苦手だから、並ぶのは大抵買ってきたものが中心だ。今日はスーパーのお惣菜コーナーにあったハンバーグに、冷凍ブロッコリーを解凍したものを付け合わせにしている。

 手抜きに思えるかもしれないが、俺が手作りしたものより買ってきたほうが美味しいのだ。最近は残業も増えている妻に美味しくないものを食べさせるほど、俺は自分の料理に執着していない。


 カット野菜は、いつの間にかどこのスーパーでも置いてあるようになっていた。冷凍野菜も、ブロッコリーやほうれん草等の茹で済みの野菜が売っている。包丁一つ使わなくても、夕食が用意出来るだけのものが手に入る。


「もう、なんか、パニックよね」


 遅い夕食の時間は、短いながらも夫婦の交流の時間だ。

 最近は、新しい伝染病とかで明るい話題が少ない。

 それがなくても、風邪やインフルエンザで、休む人が増える時期でもある。妻の職場でも病気で休む人も、家族が病気で、看病のために出勤できない人も出て来ているという。


 人間という動物が四六時中元気に働けるわけもない。病気で休んだり、家族の都合で休んだりというのは当然ある。

 しかし、その辺りのリスクヘッジを含めて従業員を雇っているのかというと、ここ数十年の「効率化」の影響で、そんな企業は淘汰されてしまった。


 結果、休んだ人の仕事は残った人に降りかかる。オーバーワークだ。それは当然の如く、残業でカバーすることになる。

 連日の残業で疲れているようで、妻は疲れた顔のまま食事を口に運んでいる。


「マスクは予防にならないとか言っても、飛沫感染なんて話があったらマスク欲しいもんなあ」

「そうそう。うちはお客さん相手だから、仕事中はお店の指示でマスクしてるのよ。病気のお客さんだって来るんだし。そうしたら今度は、マスクで接客は失礼だーっておじいさんがいてさ」


 食事中の話題は職場の愚痴になることが多い。

 理不尽な経験は、俺も営業をやっていて何度もあった。昨日言っていたことと違うどころか、ついさっき言っていたことと違うことを言い出して、本人はそれにまったく気づいていない、なんてのはしょっちゅうだ。

 だから、愚痴くらいはいくらでも聞く。ただ、愚痴を聞く度に苦労を掛けているなとも思う。動画の収入が今の小遣い程度から、生活費を賄えるくらいまで増えればいんだが。

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