第2話異次元災考察
あれから生まれたばかりのアンシャルに私の上着を着せて車に乗り込み、研究室に連れて帰った。
研究室に着いたところで別室にアンシャルを入れ、旧式のパソコンに機材を繋いで別室の様子を見ながらパソコンを動かす。
「一度魔法を使ってみてくれないかな?」
「え?何すんの?」
実は周りにはレアメタルが山ほど散りばめてあった。
その鉱石との反応を見てみようと思っていた。
「なるほどね」
心を読まれた。アンシャルに隠し事はできない。
だが、用はすんだ。
羽根がひとひら別室の中に舞い落ちる。
いくつかのレアメタルにその羽根が触れて反応を示す。
「アリエス様。お疲れ様です何かわかりましたか?」
アヤが背後から私に珈琲を置いてくれた。
「まだ確証はないがいくつかね」
と言いながらキーボードを操作する傍らでアヤはモニターに映るアンシャルの姿をぼんやり眺め、
「アンシャルって寒くはないのかな?」
まっ裸のアンシャルを見てアヤは一言。
そういう問題か?
_あれじゃ変態だぞ?
最早羞恥心とかそういうものからも解き放たれてしまったアンシャルは一向に服を着ようとしなかった。
以前私が差し出した時も
「特に必要のないものをどうして着なくちゃいけないの?」
と言っていつかのレポーターのようにその辺に放った。
それはアヤのお下がりなんだからもうちょっと大切に扱ってほしい。
そこそこ高そうな装飾のキラキラした服はたしか、レアメタルを織り込まれているとか。
_石があの中に?
「違いますよ?あの服そのものが石なんです」
_何だと?
石は無理だろう?
私も聞いたことがない。
石を繊維に加工する技術なんて。
「元々元素世界の技術じゃないそうです」
_は?
アヤはなぜそんなものを持っている?
「おばちゃんが」
叔母が?どうしたって?
「親戚筋を辿ってきたものだけど、アンタ着るかい?って」
たしかに少し綻んではいた。
だが、それも「味」というレベルだ。
むしろそれが元からあってもおかしくないというくらいのものにさえ見えた。
それをあの時アンシャルに与えていた。
「今日はもう休もう」
考えるのに疲れた私は飲み終えたカップを手に立ち上がる。
声をかけたアヤはいつの間にか私の隣に座ってとっくに眠っていた。
長い白衣、長い髪を垂らして自分の腕に横向きに顔を伏せて熟睡しているようだった。
アヤは元々一般人だ。
最初に自然発生したアンシャルというのを除けば、他と何も変わらない20代の女性だ。
アンシャルだからと開放感に浸るでもなく魔法も一度も使ったところを見たことがないごく普通の。
ひょっとしたらアンシャルとしては出来損ないなのかもしれない。
だが、それでいい気がした。
叔母に頼まれて研究室には連れてきたが、助手までやると言い出したのには驚いた。
危険を伴うため、私も簡単に許したワケではない。
あまりにアヤが熱心に詰め寄るため、条件を複数突きつけて追い返した。
しかしものの二、三日で基礎の知識を身につけ、一週間以内に実技をこなし、二週間を越える頃にはなくてはならない助手となっていた。
「どうしてこうなったんだろうな」
一人ごちるのも最早クセになる。
頭で考えるとアンシャルには筒抜けるためだ。
アヤも立派なアンシャルだったから。
信じられない。身内がそんな自分と同じ生き物ではないなんて。
叔母はそれも含めて私に、
いや研究機関UNSHIOLL<アシオル>に預けたのかもしれない。
私の頭文字は入っていないが、私はこの中のコードAという証明をもらっていた。
_別にこんなものはいらないのに。
私はただ人を救えるなら何でも良かったのだ。
人であろうとなかろうと、等しく幸せであればそれでいい。
メタル調のプレートに書かれた役職は「特別顧問」。
勘に障る名称だった。
とってつけた役職に違いない。
そもそもこの研究機関は異次元災より後に急拵えで発足されたもの。
役に立つかどうか怪しいような専門家を召集して、研究を進めて「新人類」を誕生させようと目論む、まるで悪の秘密結社だった。
私に白刃の矢が立ったのはアヤの存在があったからだろう。
それがわかった私<アリエス.ルゥ>は発足していくらもしない内にアヤを連れて機関を抜けた。
その後極秘にアヤのアンシャル化を止めるため、異次元災の研究を進めるも成果はなく、現地に赴いたところあの有り様だったというところだ。
少数ではあるが、人類は今も生きている。
荒廃した街もおかげでやや機能はしている。
時間をかければ復興もするだろう。
だが、それでは間に合わない人も少なくないのはわかる。
そんな人の望みになればと
私は新たに「研究機関UNSHALL<アシオル>」を立ち上げた。
立ち上げたのもそのデータベースの半数も作り上げたのは私だが、途中から人類を救う目的は薄れ「新人類」を作り上げることが目的になっていったため、私は一部のスタッフと共謀してアヤを救い出し、スタッフは私とアヤのために半数が捕まった。
残る半数が私とアヤにもう一つの研究室の住所を教え、足がつかないようにするため自害した。
思い返せばなかなかヘビーな人生だなと言えた。
だが、私は諦めない。
この窮地を救う勇者は必ず現れる。
「そのためにはまず」
私は研究機関UNSHALLの読み仮名を変えた。
アンセムと。
異次元の言葉で希望、勇気というらしい。
私はこの名前で仲間が遺してくれた小さな研究室で一からスタートを切ろうと決意した。
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