第2話 非現実



  「まじかよ...。あんな高さから落ちても平気だとか夢か?夢だなこれは。」

  「残念ながら現実ですよ。」


ファントムはそう言いながら人並外れたという表現に収まらない驚異的な跳躍を成し、地上から建物の屋上に飛び移った。


  「おいおい!なんだよこれ!マジで人間辞めたのかよ...おれ。なにかすごい失敗な道を選んだ気がしてきた...」

 「私を選ばなかったら死んでましたから生きたいという思いでの選択では正しいかと。」

  「分かってるよ!もう、ほんと、どうしよ。」

  「落ち込んでいるところ申し訳ないですがかえってきてください。あの男、追ってきてますよ。」


ファントムが逃避中の比莎士を現実に戻させ、後ろを見させると、俺を突き落としたファントムが追いかけてきていた。


「なんで...!なんでお前がファントムになってるんだよォ!!!まさかぁ...隠してたのかぁ....?ますます気に入らねぇなぁ....クソがァ!!!」


先程よりもより怒りや憎しみが込められた声色で追ってきている。心無しかあの面、更に恐ろしくなっているような気さえもしてきた。


「どうします?西野比莎士。一応、応戦できますが。」


ファントムがそう提案してくる。できるならそうしてもらいたいものだが、なんと言うか、ちょっとあいつが怖すぎて近寄りたくない。


「いや、このままあいつを撒いて欲しい。」

  「ふむ。それはいいのですが、相手はあなたの正体を知っている。ということは無いですか?もしそうだったら私、消えてしまう可能性が高いのですが。」


これを聞いた瞬間俺の中で電撃が走る。


(しまった!その可能性を考えてなかった!いっそのことこいつファントムに任せてやってもらうか?いやいや、でもそうするとこいつ殺そうとするかもしれない。でも...)


チラッと後ろをみる。


「ぶっ殺してやる!!!!」


あのファントムが殺気をさらに引き出して追ってくる。もはやその面は『デスマスク』というか『般若』にも見えてきた。


(あ、無理だ。怖すぎる。)


「あの、早く決めていただけませんかね。私もこのままというのは.....ん?」


そうファントムが言葉が詰まった原因には前に黒いフード姿で短いジーンズを履いた子供ぐらいの少女?が立っていた。


  「あの子がどうしたんだ?」

  「いえ、勘違いかもしれませんがあのファントムとがするのですが。」

  「は?」


見ると、フード姿の少女?の両手には姿には似合わないサバイバルナイフが握られ、フードからは白い仮面が見える。つまり彼女もファントムである。


「まじかよ。2人目!?」


少女?のファントムはあのファントムよりも数倍速い速度でこちらへ飛んできて、左手のナイフで顔を切りつけにきた。

俺ならばこれに反応出来ずに切られていただろう。だが、今、体の操縦権は俺が持ってない。

ファントムが素早く左へ避けた。しかし、少女?のファントムはそれを読んでいたのか逆の手にもつナイフで避けた先を突いてきた。

さらにファントムはこれを体を器用にくねられせて回避した。....俺の体ってこんなことできたんだな。

少女?のファントムもさすがにこれには驚いたようでこれ以上の追撃はなかった。

その代わり俺を追いかけていたあのファントムが標的にされたようでそっちの方はまさしく一瞬の出来事であり、少女?のファントムのナイフが気づいた時には既に首に刺さっていた。

そして、少女?のファントムはこちらをずっと見ているが追いかけては来なかった。

日が少し沈みかけている頃にファントムがあるところで止まる。そこはあるアパートの前で、これは比較的に新しく建てられ、ここから会社まではそこまで遠くなくて駅もそこそこ近い。

部屋はそこまで狭くなく、少し言うとしたら壁が少し薄いような気がするぐらいで後は文句がないアパートだ。

と、何故ここまで詳しく言えるかと言うと、


「俺の家じゃねぇか!!なんで知ってんの?」

 「はい。あなたの記憶を頼りに来ました。」

「あぁ...はい。そうでしたね。忘れてました。」

  「さて、これで初回サービス終了となります。これからはご自分で切り抜けてください。応援はしてますので。」

  「なんだよ初回サービスって、これからも俺の事を守ってくれよ。」

  「私もそうしたいのですが、こちらにも少し事情というものがございまして...」

  「宿主の生命よりも大事な事情ってなんだよ。」

  「それは言えません。」

  「ったく。」

  「あ、あと、私の仮面を呼ぶのはご自由に出来ますのでご安心ください。出す時は、こう、『出てこいー』みたいな念をして頂ければ現れますので。」

  「いらないし、そんなアバウトなのでいいんだ。」

  「では、ご武運を。」


と言うと仮面が無くなった。未だに状況が整理できないが少し疲れた。まだ夜前だが、早く寝て明日、どうするか考えよう。そしてアパートの2階にある自室へと帰宅した。



その様子を見ている2人の人影があった。


  「おい、あんな独り言を言うやつほんとに使えるのか?」

  「さぁ?でも私の攻撃をかわしたわ。2度もね。」

  「ほぉ。お前のをかわせるやつはまずノーマル通常型ではいないな。となるとあいつ相当、地がいいんじゃないか?」

  「そうであってほしいね。私たちの部隊は人手が足りないもの。」

  「いつスカウトするんだ?」

  「明日でいいんじゃない?今日は休ませてあげましょう。」

  「はいよ。ははっ、あいつ明日もきつい一日になりそうだな。」



———目覚ましの音で目が覚める。昨日はかなり早く寝たはずなのにいつもと同じ時間になってしまった。

念の為に昨日のことが夢ではないかと確かめるために洗面所へ行き、ファントムが言ったように仮面が出てくるように念じる。

するとそれに呼応するようにあの仮面が俺の顔についた。


「夢じゃ....なかった....。」


仮面を外すと仮面は塵のように消えていった。そしてこれからの事を悩んでいると、まだ朝早いのにインターホンが鳴った。


「誰だこんな朝早くに...」


文句をたらしながらも一応は応対する。


「はい」


「あ、すいません。警察のものなのですが少しお聞きしたいことがございますので、玄関を開けて貰えないでしょうか。」


少し低めの男の声だ。いや、それよりも警察?もしかして、俺のことがファントムだっていうことがバレたのか。念の為にもう一度ファントムになってみる。何事もなく仮面は自分の顔についてきた。つまり、少なくともファントム関係の話ではなさそうだ。

恐らく、どこかで起きた事件の聞き込みだろうと思い、玄関へ行き、扉を開ける。


「あ、どうも。西野比莎士さんですね。」


と、30代ぐらいの男が現れた。ダボッとした焦げ茶色のズボンに変な天使のマークが描かれたTシャツを着ていた。腕、足、首の筋肉は隆々と男らしく盛り上がっており、見た目は警察関係者ではなく、アメリカとかにいそうな人だが、私服警察官...なのだろうか?というか、とても身長が高い。俺は176cmはあって、まぁ高い方だと自負しているが、この男は180...いや190はあるのではないか?それに加わって、強面で金髪ソフトモヒカンによってかなり圧力を感じる。


「は、はい。そうです。」


何とか怪しまれないように平然を装う。


「すいませんがちょっと来て貰いますね。 」

「えっ?」


どういうことか理解が出来なかった。けれど男の人はすごいにっこりとしている。そして突如ドア枠の上から小柄な人が一人、比莎士に向かって飛び蹴りをした。これに反応出来ず、比莎士は後ろへと飛ばされた。

何が起こったのか分からない比莎士は玄関を見ると、昨日、あのファントムを殺した少女?のファントムがいた。そして目にも留まらない速さで、比莎士の首にスタンガンをうち、比莎士は気を失ってしまった。

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