48話 魔王アレス

魔族領東にある港町。

カイレスに大きな船が幾艘も係留され、続々と物資が運び込まれる。

これらの船はオケアノス諸島から遥々齎されたものだ。


船から一人の女性が下りて、此方にやって来る。

紫色の軍服を身に纏い。

ウェーブがかった金の髪を持つ、少々きつめの顔つきをした美人――


「まっさかあんたが魔王になっちまうなんてね」


オケアノス諸島での戦いにおいて、共闘していた革命軍のレイラが目を細める。


「一時的なものだ」


魔王という肩書など、所詮お飾りでしかなかった。

あくまで連合との戦いにおいての旗印的な意味合いでしかない。

言ってみれば的だ。


それでも俺がそれを買って出たのは、ブレイブに対する宣戦布告だ。

アレスという偽名を使ってはいるが、当然奴も俺の事には気づいているだろう。


「それよりも助かった」


イナバを倒した事で、魔族領における革命は成功を治め。

魔族は領地内の人間を廃し、連合に対し独立を宣言している。

当然それを連合が指を咥えて見ている訳もなく、大きな戦争が起きるのは時間の問題だった。


だが、戦争を行なうには余りにも物資が不足している。

イナバが対連合用に集めていた分を含めても、勝つ事を考えるなら、現状ではまるで足りていない。


だから彼女に連絡を取ったのだ。


「別に構わないさ。あんたには大きな借りがある。それにオケアノスは連合から弾かれているせいで、こちとら真面に交易もできてないからね。魔族が戦争に勝ってくれさえすれば、此方としても良いお得意様が出来るってもんさ」


魔族が勝った暁には、正式にオケアノス諸島と交易を結ぶ予定になっている。

とは言え、此方が勝つという絶対の保証など無く。

負ければ彼女達は連合からより厳しく締め出され、難しい状況になるのは目に見えていた。


ハッキリ言って分の悪い賭けだ。

それでも恩義を重んじ、物資を届けてきてくれた彼女には感謝しかない。

ブレイブを倒し復讐を果たした暁には、何らかの形で彼女には恩返しをする必要がありそうだ。


「ああ、そうそう。何でも教会と、それに繋がりの深い国は動かないみたいだね」


「そうか」


レイラの言葉にほっと胸を撫でおろす。

魔族領からでは、連合の内部情報を仕入れるのは難しい。

その為、リーンがちゃんと約束を果たしているか少々ヤキモキしていた。

だがどうやら彼女はちゃんと約束を果たしてくれた様だ。


「勝てそうかい?」


「勝つさ」


戦争にも。

そしてブレイブにも。

必ず。


「レイラ、悪いがもうじき戦になる。とんぼ返りをさせる様で心苦しいが――」


物だけ貰ってさっさと追い返すのは気が引ける。

だが戦争が始まれば、物資を搬入してくれている彼らにも大きな影響を与えかねない。


「ああ、分かってる。用が済んだら部下達には直ぐにでも引き揚げさせるさ。但し、あたしは残るよ」


「どういう事だ?」


彼女の言葉の意図が分からず、首をかしげる。


「大きな借りがあるって言っただろ?ここに残ってその借りを返させて貰うよ」


そういうと彼女は不敵に微笑む。

その笑顔は、まるで無邪気な悪戯っ子の様に楽し気だった。

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