42話 デビルアクス

高く厚い壁に守られた、まるで要塞の様な屋敷。

その正門付近を多数の魔族が包囲する。


数的には圧倒的に此方の方が上だ。

だがそこにはイナバがいる。

恐らくこの程度の戦力なら、彼一人に蹴散らされてしまうだろう。


「いけ!」


号令が響き、まずは魔法やブレスが周囲から飛び交う。

堅牢な建物とはいえ、周囲を囲んだ魔族達の一斉放火に鋼鉄の門扉はひしゃげ。

断続して行われる集中砲火に耐え切れず、遂には爆音と共に崩壊する。


それと同時に、無数の魔族達がこじ開けられた門へと雪崩れ込んだ。

俺はその後にゆっくりと続く


魔族と魔族がぶつかり合い。

イナバが根城とするそこに、怒号が響き渡る。

内部の敵の数は思ったよりも多く、一進一退の攻防がそこかしこで繰り広げられていた。


「偉く重役出勤じゃないか」


女鬼人のイナバが俺の姿を目にし、声を掛けて来る。

その間も動きを止めず、その手にした巨大な戦斧で敵を切り裂いていく。


かなりの腕前だ。

頭一つ二つ抜けている。

まあそれでも、ターゲットであるイナバと比べれは数段落ちる事にはなるが。


「雑魚の相手をするつもりはない。お前達で片付けろ」


俺はそう告げると、イナバを目指して真っすぐに進む。

奴の居場所は冥界の瞳で確認してある。

今は屋敷の大広間で暴れている様だ。


しかし……少々気になる事がある。

それはイナバの気配だ。

何か普通ではない物を、奴は纏っている様に感じる。


「ここか」


途中何体かの魔族に絡まれはしたが、適当にぶん殴って黙らせつつ。

目的の大広前へと差し掛かる。

中央にはフルプレートを纏った大男が仁王立ちし、その周りには大量の魔族達が死屍累々と転がっていた。


床は一面血に塗れ。

さぞや楽しい催し物が開かれていた事を伺わせる。


「くそが!?」


俺の後を付けて来たのか、女鬼人のイナバが広間の惨状に毒づいた。


「手を出すなよ、奴は俺の得物だ」


俺は手を向け、邪魔をすれば殺すと宣言する。

彼女は俺の本気の言葉に返事を返し、他の場所へと移動する。


「リピ、結界を頼む」


「はーい」


俺の指示に従って、リピが魔法で広間に結界を張る

リピの結界は強力だ。

俺やイナバは兎も角、他の魔族達ではそう容易く突破する事は出来ないだろう。

これで余計な邪魔を気にせず奴を殺せる。


「久しぶりだな、イナバ」


リピに離れている様指示し、俺はゆっくりと奴へと近づく。

血溜まりを踏みつけ、足元の邪魔な遺体を蹴り飛ばしながら。


「死にに来たか、ガルガーノ」


奴は手にした巨大な斧を肩に担ぐ様にかけ、此方へと振り返った。

その目は真っ赤に充血し、イナバは口元に醜悪な笑みを浮かべる。


「その斧か」


彼の手にする斧からは邪悪なオーラが立ち昇り、とてつもない力を感じる。

冥界の瞳で感じた違和感の正体は、これに間違いないだろう。


イナバが魔王城の地下隠し倉庫から、巨大な斧を手に入れたという話は魔族から聞いていたが……ここ迄強力だとはな。

まったく、厄介な物を手に入れてくれたものだ。


「くくく。この斧さえあれば、俺はブレイブにも負けない」


「随分と大きく出たな」


確かに、そこそこいい勝負はできるのかもしれない。

その力は強力だが、それでもブレイブにというのが俺の見立てだ。

恐らく奴との評価のずれは、その手にした斧による精神的な物だろうと俺は判断する。


「ここでお前を殺し。ブレイブを殺し。俺は世界を手に入れる。俺を受け入れなかった世界を壊して……壊して、壊して、壊して、壊して、壊し尽くして!俺は世界を手に入れる!!」


どうやらイナバの憎しみは魔族だけではなく、この世界全てに向いている様だ。

邪悪な力を放つ斧による精神汚染か、それとも元からの願望かは分からない。

だがそんな事はどうでもいい事だ。


奴は俺を裏切った。

その報いをここで受けて貰う。


「死ね!ガルガーノ!」


イナバが巨斧デビルアクスを勢いよく振り上げる。

予想以上に手強いと判断した俺は、端っから冥界の力を全開にして迎え撃つ。

振り下ろされた斧は、凄まじいスピードで俺へと迫る。


「舐めるな!」


だがどれ程早かろうが、こんな大振りを喰らってやるほど俺は間抜けではない。

その一撃を半身に捻って躱す。

奴の強烈な一撃は地面に突き刺さり、大地を抉って足元を巨大なクレーターへと変える。


足場が激しく崩壊する。

だが全く問題ない。

俺の体は既に空中にある。

足場が悪くなるのは予想済みだ。


「死ぬのはお前だ!イナバ!」


俺はその状態から体を捻り、渾身の回し蹴りを奴の顔面へと叩き込んだ。

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