36話 コントロール

「ふむ、なかなか上手くいかない物だな」


俺は自分の背に両手を付いているリーンに告げる。

ここは教会の一室。

そこで俺は、神炎のコントロール方法を彼女から習っていた。


俺の体の中に入った神の炎は、消えてなくなった訳ではない。

あくまでも封印されているだけだ。

それも正式な封印では無く、神封石の力による仮初の封印に過ぎない。


正直、この状態だといつ封印が破られてもおかしくはなかった。

だから俺は封印が解けた時の対策として、リーンに神炎のコントロールの手ほどきを受けているのだ。


「かなり難しいでしょうね。仮に宿したのが私だったとしても、完全にコントロール出来るかは怪しいです」


神炎は神の力だ。

聖女の力をもってしても完璧なコントロールは難しい。

リーンがあそこまで完璧にコントロールできたのは、彼女だったからこそだろう。


「取り出して封印できれば楽なんだがな……」


だがそれは難しい。

封印するには大掛かりな儀式の用意と人手が必要になる。

そんな大掛かりな動きを見せれば、直ぐにブレイブの耳に入り、軍を率いてすっ飛んでくるの目に見えていた。


まだブレイブと戦うわけには行かない。


正直今の俺程度の力では、魔法を封じられる前の俺に勝つ事すら難しいだろう。

そしてブレイブはかつての俺よりも強かった。

悔しいが、奴を倒すにはまだまだ力が不足している。


「残念ですが、地道に訓練していくしかないでしょうね」


ブレイブに勝つため、出来うる限り訓練に時間を割きたい所だが。

世の中儘ならない物だ。

暫くは神炎のコントロールに時間を割かねばならないだろう。


「よろしく頼む」


因みに今やってるのは神聖魔力のコントロールだ。

リーンの手から俺の体内へと力を送ってもらい。

それを俺がコントロールするという内容の訓練を行っている。


神炎と神聖魔力は性質が似通っている為。

まずは神聖魔力の方で慣れ、ゆくゆくは炎を押さえられる程度を目指すつもりでいる。


「王子様ー、お腹すいたー」


リピが俺の顔の周りを飛び回り。

食事食事と、ひな鳥が親におねだりするかの様に連呼しだす。

チラリと時計をの方に目をやると、既にお昼の時間は大幅に過ぎていた。


気付いて俺のお腹も急にうずきだし。

ぐうぅぅと大きな音を立てる。


「そろそろ食事にしましょうか。持ってきますね」


リーンが苦笑いしつつ、賄いを取りに部屋をでていく。

いらん恥をかいてしまった。


「やったー!お昼だー!今日は何かな!?」


「別に腹に溜まる物なら何でもいい」


「えー、私は甘いものがいいなー。ケーキとかクッキーみたいな!」


それは食事では無くおやつだ。

甘いものが好きなのはわかるが、そんな物ばかりを食べていると太ってしまう。


だがそう言えば――


リピをまじまじと眺める。

彼女は暇さえあれば蜂蜜を舐め、お菓子を間食していた。

にも拘らず彼女が太った様子は全くない。


妖精はいくら食べても太ったり、体調不良になったりしないのだろうか?


「妖精は太ったりしないのか?」


「太るってなに?」


その返答で全てを悟る。

こっちは少しでも万全の状態を維持する為に――無駄に太ると、それだけ動きが鈍くなる――色々と食事制限をしているというのに。

太る心配がないとは羨ましい限りだ。


「まあいいさ」


他人を妬んでいても仕方ない。

食事を待つ間も時間が惜しい身だ。

俺は余計な雑念を頭から振り払い、さっきまでの訓練の感触を思い出しつつ瞑想を行う。

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