38話 探索

魔族領。

聖王国連合直轄地、ソドム。


俺は悪魔ポトフの透明化の力を利用し、街中を見て周る。

真昼間だと言うのに住居の扉は固く閉ざされ、通りに魔族達の姿は見当たらない。

目につくのは、連合から派遣されたであろう人間の衛兵の姿だけだ。

ここに来る途中、何か所か魔族達の街を見て来たが、ここまで極端なのは初めてだ。


この街にはイナバが滞在している。

恐らくそのせいで他よりもずっと締め付けが強いのだろう。

ひょっとしたら、不要な外出を一切禁じられているのかもしれない。


「こんな有様で、本当に戦争など起こるのか?」


思わず小さく呟く。

これだけきつく締めあげていたのでは、魔族がイナバについて来るとは思えないのだが。


「……」


街の中心に、まるで砦の様な建物が立っていた。

そこがイナバのいる場所だ。

冥界の瞳で確認すると、中から大量の生命反応を感じる。


人間では無く、強力な力を持った魔族達の気配だ。

その魔族達が要塞内の各所で警備についている。

どうやら彼は、1部の強力な力を持つ魔族の懐柔に成功している様だ。


それならば、一応戦争自体は可能か……


弱い魔族を捨て駒かべにして巨力な魔族で敵を蹂躙する。

これなら物資も最低限で済む。

只の壁に強力な武器などは不要だからな。


とは言え、相手は数で圧倒的に勝る連合だ。

しかも相手の対象はあのブレイブ。

戦争を仕掛けてもとても勝ち目があるとは思えない。


「まあ考えても仕方がない事か……」


イナバの意図はどうあれ、どうせ戦争が起こる前に俺が奴を始末するのだ。

考えるだけ時間の無駄だろう。


再び砦へと目をやる。

堅牢な建物だ。

結界もきっちりと張ってあり、警備も巨力な魔物が担当している。


全く隙が無い。

忍び込むのは難しいだろう。

かと言って、正面から突っ込むわけにもいかない。

流石にそれは無謀だ。


やはり魔族と手を結ぶのが現実的か……


締め上げがきついと言う事は、多くの魔族から反感を買っているという事だ。

上手く魔族を煽ってクーデターを起こさせ、それに便乗して奴の首を取る。

それが一番だろう。


問題はどうやって魔族と接触するかだが……


「魔族が集まってる所を見つけたよ!」


リピが大声を出す。

焦って周りを見渡すが、気づかれた様子はない。


「声が大きいぞ」


「ごめんなさーい」


妖精には何処でも好きな所を覗き見る力がある。

その力を利用して、リピには不平不満を持つ魔族の集まりを探して貰っていた。


正直、目的の場所や状況が特定できている訳ではなかったので、かなり時間がかかるかと覚悟していたのだが、あっさり見つかり拍子抜けする。

まあそれだけリピが頑張ってくれた証拠なのかもしれない。

後で、彼女には褒美として鱈腹蜂蜜を用意してやるとしよう。


「それで?場所は?」


「んとねー」


リピから場所を聞き出し、俺はその場へと向かうのだった。

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