26話 帰還
「どうしても行くのかい?」
「ああ、随分と世話になったな」
「そうか……」
レイラが左手を差し出してくる。
おれはそれを握った。
盗賊のレイラと決着をつけて1年。
頭を失った配下は狙い通り分解し、革命軍は勝利を収めた。
彼女の支配下だった状態だった島々は開放され。
革命軍と、連合を組んでいた組織とで分割統治されている。
「ありがとう。あんたがいなかったら、今頃このオケアノスがどうなっていた事か」
「俺は自分の復讐を果たしただけだ。礼を言われるような事はしていない」
「それでも、あんたが私達を助けてくれた事には変わらないさ」
そう言うとレイラはウィンクし――
「ああっ!?」
俺の唇を奪う。
それを見てリピが大声を上げる。
「これでもファーストキスなんだよ。責任を取りたくなったらいつでも帰って来な」
一方的にキスしておいて責任と来たか。
無茶苦茶だな。
因みに俺もファーストキスだった。
勿論これを伝える気はない。
「ふ、考えておく」
「駄目!」
リピが俺の顔に張り付く。
こいつの焼き餅も相変わらずだ。
「ははは、リピも元気でな」
そんなリピを見てレイラが快活に笑う。
「じゃあ元気でな」
「ああ、またな」
「ああ、王子様。待ってよー!」
俺はレイラに最後の挨拶をして船に乗り込む。
これは革命軍が用意してくれた船だった。
目指すは東、かつて俺が脱出してきたブルームーン王国だ。
俺は復讐の為、祖国へと戻る。
この1年間、俺は鍛錬に勤しんで自らを鍛え上げてきた。
正直、それでもかつての仲間達に俺の力が届いたとは思えない。
にも拘らず戻るのは、どうしても阻止したい事があるからだ。
それはリーンの聖母就任。
聖母は教会における最高位。
その座に就いたものは神の御使いたる神人として扱われ、未来永劫その名を栄光と共に残される事になる。
「ふざけるなよ」
腹立たしさから、思わず口から言葉が零れた。
俺をふざけた理由で裏切って牢獄に叩き込んでくれた女が、未来永劫称えられる存在になる?
だれがそんな事を許すものか……
今度もまた冥界の力を使う事になるだろう。
だがなりふりなど構っていられない。
あいつは……リーンは俺が確実に殺す。
聖母の座になど、決して就かせはしない。
「アレス!」
見ると、レイラが岸から力いっぱい此方へ腕を振る姿が見えた。
俺も片手を上げ、それに答える。
もう、二度と彼女と会う事は無いだろう。
船はゆっくりと港を離れ、東へ進みだす。
さらばオケアノス諸島。
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