ウルス-公国機甲軍小隊伝奇録-

スキヤキ

第1話 時を超えて巡り会う命、水

どうして出会ってしまったの。


あなたに会わない方が良かった。


もう、もどれない。待つのは破滅。


「僕はね、キャス。君に会えてーー」


どうして、どうして! 黒炎が舞う。


こんな形で会うなら……私は!!!


思い出して。あなたに出来ることを。


無理だ……戻れなくなる。無理だよ!


落ちる日。人工の落日は死の瞬き。


やる。やるしかない! 私は!!!


破滅の嵐が吹く前に、水の機身は消える。時を超える天空の計り門へと、手を伸ばす。消えそうで。儚くとも。


私は!!! 忘れない! この思いを!


計り門の盤が巻き戻る。全てを忘れる。力も、記憶も、思い出もーー何もかも。それでも。ねえ、神様。


忘れないものはある。その身結ぶは水の縁ならば。巡り会いの果てに、無限を超えて、本当のあなたに出会おう。あなたの、望むままにーー遡れ。


あなたに、もう一度会う。再びーー。


あなたに、私ーー。


ーー。


気がついたら、雨が降っていた。窓の外で、濁った水色の街並みを濡らしていく、透明に見える水。私、学校に行かなくちゃ。でも、行きたくない。行かなくちゃいけないのに。


私誰かに会わなきゃーー? そうだ。誰かに会いに行こう。何か理由があれば、外に出て行ける。誰かは分からないけど、私、誰かに会う、気がするから……行こう。


着替えて。何でもいいから食べて。鞄を持って。傘を差して。外に出る。


曇り空は泣きじゃくる赤ん坊のようにどうしていいか分からない気持ちにさせて、本当にこんな日に誰かと出会うのかな、と思いながら、私は歩く。


学校までは駅を少し乗り継いで行く。

駅に着いて電子カードを通して、待つ。私はこれからどうなるんだろう。


このままただ時間を無駄にするのかな。まだ……自分の身の振り方を知らないせいで。誰か……私をこの場所から連れ出して。そういう考えで、ずっと待っている。私は……どうして。


電車が来て、揺られて、電車を降りて先を急ぐこともなく、ただ目的も薄く歩く。今日、会えなかったら……私。


学校に着いて、授業を受ける。学校ではもう新しいことなんて無くて、誰も私のことなんか見向きもしない。どうして、なんて疑問はない。そもそも、見向きなんてされなくてもいい。私は私のままで。良いなんて思ったことはなくても。それでも……私は何かを変えたがっている気がしている。


心の中の大きな流れ。これが良くない。良くないから、私は今日も救われるのを待ってる。誰かに会いたい訳ではないのかもしれない。それは、溜まった水の堰を切る機先のようなもので、流れを始める所作なのだけれど。

一度流れを始めたなら、もう止まることはない。それはきっと何かの始まりである一方で、何かの終わりでもある。一度堰を切ったなら、もう水は元に戻らない。水は流れ続けてどこまでかまでは行ける。私は、水の流れの止まるところで、心を得るか。死ぬか。


図書館に来て、今度提出するレポート用の資料をコピーするために書庫を探る。その時、私は空いた本棚の空間の向こうに、顔を寄せ合う男子と女子を発見する。


顔を離すと、女子生徒は泣いていた。何かを呟くと、足早にこの奥まった空間から出口へと向かっていった。暗がりで窓の影の光の中に光った涙の線が一つのシーンのようで、見入ってしまった。


資料探しに戻ろうと気付いた所で、遅かった。何かを察して体を返した所で手を掴まれる。

「あっ!?」

そんなことはないのに、電流が走ったように身体が過剰に反応してしまう。

体を引き纏められて、寄せられる。

震えるように顔を上げた時、その顔があった。私を見下ろす眼。私は知る。


この日、私は出会いを得た。私という堰と身体を満たす水を震わせたこの男、ハルト=エルデンシュタイン。

私を壊す男との、最初の出会い。今。




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