第18話 非勇者
「助けてって、どういうこと?」
アクセルの言葉に問い返せば、アクセルは何度か口を開き閉じと繰り返す。その間、目を左右に泳がせて明らかな葛藤が見て取れた。
アクセルの肩を掴む。
「アンネがどうしたの?」
「た、すけてくれるのか」
「事情を教えてくれ。わからなきゃ何もできないよ」
「っ……」
アクセルの口から“事情”が語られる。思いもしなかった内容に私は目を丸くしてしまう。
アクセルとアンネが物語に出てきた竜と娘の子孫で、さらに物語の竜は生きていて……?
思わず、床を見下ろす。足元の奥深くであの竜が、竜の体が街全体を支えているだなんて、そんなことがあり得るのか。
だけど、執務室の隠し扉の向こうに竜がいたのは事実だ。
「アンネを助けるには二つ方法があるね」
「二つ……?」
窓の向こうを指さす。窓の外では空を魔物が飛び回っている。
つまり辺境伯が娘を差し出すと決めた、決意せざるを得なかったのは類を見ない魔物の軍勢が街を襲っているからだ。
今、竜に暴れられるのは非常に都合が悪い。しかしそれも今でなければいい。
「魔物の軍勢から街を守り切るか、もしくは地下の竜をもう一度殺すかだ」
「そんなことが、……聖剣の勇者なら可能なのか」
「いや無理」
「はっ?」
「聖剣があるならともかく、聖剣は王城だもん。今の私はただの騎士見習いに過ぎないよ」
肩をすくめる。大体、勇者ってなんだよっていう話。私がそんなものになった覚えはない。
そんな態度が気に障ったのか眉を吊り上げるアクセルの腕をつかむ。少なくともアクセルと私だけでは無理だ。
「行こう」
「どこにだよ」
「困ったときは魔法師に相談だって言うだろ?」
基本的に魔法師は後衛に徹する。フェイは魔法師見習いなので戦場には向かわず、戦場から戻ってきた負傷者の治療に専念していた。
「いや、無理でしょ。竜を倒すだって? あのね、低級竜を狩るのにだってプロの狩人が数人がかりで何日もかけるんだよ。それを、伝説になるほどの竜だって? 無理無理。諦めなよ」
「でもさ、アンネが」
「あのさ、それだって悪い話じゃないじゃないか。女の子一人とニュウイルドで暮らす何千人もの命だろう。妹を助けたいっていう気持ちも分かるけど、そのための犠牲が釣り合わないよ」
「お前!!」
フェイに飛びかかろうとしたアクセルを止める。フェイは気にもしていないというようにアクセルを見つめている。
「フェイ、魔法でどうにか出来ない?」
「ご存じの通り魔法は万能じゃありません。殿下……ただ、殿下が望むなら聖剣をこの場に召喚することは可能かも、しれませんね」
「聖剣を?」
「殿下はすでに一度、聖剣を抜いているんでしょう? もう持ち主として認められているなら聖剣も殿下の声に答えるかも、……実行するなら召喚魔法の紋を教えますよ」
「えぇ……、でもそれ」
伝説で竜を倒したのは聖剣であるらしいけど、正直、あの聖剣にそれだけの力があるのかわからない。それに仮に伝説が本当でも私にそんな大層なことが出来るのか、という問題もある。
私はおとぎ話の勇者じゃないし、特別な力も何も持っていないんだから。
「ウルバノ! 頼む、頼む……っ!!」
「……一応、やるだけやってみようか、その……できるか分からないんだけど……」
フェイから召喚魔法の紋を教わり、アクセルを講堂まで送る。危険かもしれないと理由をつけて竜の元には私だけが向かうことに決めた。
そもそもの話だけど、竜がアンネをどうしようとしているかもわかっていないし、一応、話しをしてみたかった。
アンネが生贄になることを望んだって言うのも人づてに聞いただけだから、本人から聞きたい。
ともかく、また隠し通路を通り竜の元へ行く。
戦場では騎士が戦っているだろう。ローザがいるのだ。いずれは勝つのだろうけど、すぐに結果は出ない。私は私に出来ることをしよう。
息を大きく吸い込んで、隠し通路へ足を進めた。
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