第42話戦いの後

 キタエル学園の選抜戦、決勝戦の直後。

 魔族化したエルザが、強襲してくる事件が勃発。


 オレは何とか彼女を助け出し、波乱に満ちた選抜戦は無事に終わった。


 ◇


 選抜戦から日が経つ。


「ふう……あれから一週間か」


 下校途中、遠目に見える闘技場を眺めながら、オレは深い息を吐く。

 選抜戦から今日で、ちょうど一週間が経っていた。


 遠目に見える闘技場は、魔族化したエルザに破壊された箇所を、現在も修理中。


 でも街の方に被害はない。

 遠目に見える街並みも、平穏そのものだ。


「あっ、ハリトにゃん!」


「ハリト様!」


 そんな時、下校路。

 後ろから、声をかけてくる少女たちがいた。


 クラスメイトのミーケとマリエルだ。


「あれ? 二人も、真っ直ぐ帰るの?」


「そうだニャー!」


「ハリト様も、ご一緒に、是非とも」


「うん、いいよ」


 住んでいるのは、同じのマリエルの別邸。

 三人で帰宅路を歩いていく。


「そういえば二人とも、怪我のあとは大丈夫?」


 選抜戦の決勝戦、マリエルとミーケは重傷を負ってしまった。

 現場で回復の魔道具で、ある程度の傷は塞がっている。


 だが回復魔道具も万能ではない。

 場合によっては、少し傷跡が残る場合もあるのだ。


「うん、大丈夫ニャー。ハリトたんの応急処置のお蔭で、この通り綺麗になったニャー!」


 ミーケは制服のスカートを軽くめくり、健康的な生足を見せてきた。

 たしかに傷跡すら見えない。


 よかった。大事な仲間の身体が、綺麗に戻って。


「ちょ、ちょっと、ミーケ! 殿方の……ハリト様の前で、スカートをめくるなんて、はしたないですわ!」


「あっ、そうだったニャん。いやー、なんかハリトたんには、いつもミーの全裸を見られているから、あんまり気にしてなかったニャン!」


 可愛く舌を出して、ミーケはペコリと謝る。

 猫獣人なので、その姿も何とも言えず愛らしい。


(まったく、こういったところは、まだミーケは子供っぽいからな……)


 文化の違う猫獣人の里で、ミーケはずっと暮らしていた。

 そのため年頃の女の子の自覚が、たまに抜けているのだ。


「そういえば、ハリト様の方は、怪我なとは無かったのですか?」


「あっ、オレ? うん。大丈夫だよ」


 選抜戦では、特に大きな怪我はしていない。

 そもそも一回戦から決勝戦まで、一切のダメージすら受けていない。


 怪我を受けたといえば、魔族化エルザからの攻撃くらいかな?

 でも今では完全に回復していた。


「そういえば、あの上級魔族、本当にヤバかったニャー……」


「そうですわね。まさか、選抜戦に乱入してくるとは、誰も予想できなかったですわよね……」


 二人の会話は、先日の魔族の話に移る。


「あの時、カテリーナ先生が神剣を持って、駆けつけてくれて、本当に良かったニャンね」


「ですわね。さすが先生ですわ」


 二人が会話しているように、今回の事件の真実は情報操作されていた。


 マリエルたち一般の生徒は、『最終的にはカテリーナ先生が魔族を討伐した』……そう知らされている。


 現場に残ったオレは、先生が戻ってくるまで耐久。


 その後は先生が神剣で上級魔族討伐。

 オレはサポートしただけ。


 ――――ということにしてあった。


(まぁ、さすがに今回の件は、おおやけには出来ないからな……)


 この情報操作は、オレがカテリーナ先生にお願いしたこと。


 何故なら『学園剣士が、たった一人で上級魔族を討った』と知れ渡れたら、大陸中が大騒ぎ。

 オレと上級魔族のことも関係も、調べられてしまうからだ。


 あと上級魔族の正体がエルザだったことも、カテリーナ先生しか知らない。


 マリエルとミーケは爆音で、オレとエルザの会話も聞こえていなかったのだ。

 二人には時が来たら、ちゃんと事情を説明しようと思っている。


「でも、今回の敢闘賞は、なんといっても、ハリトたんニャー! あの上級魔族を相手に耐えて、先生と魔族に立ち向かって、凄すぎるニャン!」


「ですわね。私も見たかったですわ……邪悪な魔族に立ち向かう、ハリト様の勇敢な姿を……」


 魔族化エルザとオレの戦闘時、二人とも先生に運ばれ中で見てない。

 他の観客と警備兵も全員逃げ出して、目撃者は皆無。


 今回の事件の全ての真実を知っているのは、オレとカテリーナ先生だけだ。


「まぁ、オレはたいしたことしてないよ。先生のサポートをしただけだからね?」


「それでもハリトたんは凄いニャン! あと特に決勝戦が! あの三人を相手に、一歩も退かなかったニャー!」


「そうですわ、ハリト様。私たちのために二本の剣を構えるハリト様……ああ……神ががっていましたわ……」


 オレの決勝戦での戦いは、二人ともばっちり覚えている。


 だが、あの場にいた観客たちは、微妙だったはず。

 何しろオレの剣術技の発動、多くもの者たちは反応できずにいた。


 それに直後の上級魔族の乱入。

 オレの決勝戦での戦いも、観客はほとんど記憶に残っていないであろう。


「ん? 選抜戦といえば……そういえ結果は、どうなるんだろう?」


「そうですわよね……一応はハリト団が優勝したはずですが、魔族の襲来で、うやむやになりましたよね」


 選抜戦の結果は、未だに保留中。

 何しろ上級魔族の襲撃の後、学園内は色々と大変だった。


 強大な力を持つ魔族が、市街地に侵入していたのだ。


 ――――もしかしたら【魔王】復活の日が近いのか?


 そのためキタエル教師陣とウラヌス領主たちで、連日に渡って会議が開催されていた。


 内容は、今後の魔族に対する対応について。

 他の学園への情報の共有など。


 上の方は、今でもバタバタしているのだ。


「とりあえずオレたちは、また授業と稽古に励んでいくしかないかな?」


 キタエル学園の授業は、事件の翌々日から再開していた。

 活動自粛はない。


 何しろ魔族に対抗できるのは、有能な剣士だけ。

 今後のために一日でも早く、生徒を一人前の剣士に育て上げる必要が、学園にはあるのだ。


「たしかにハリトたんの言う通りニャン。ミーも早く一人前になって、次こそは魔族を倒せるようになるニャン!」


「そうですわね、ミーケ。私も負けておりませんわ。早速、屋敷の庭で稽古をしましょう!」


「了解ニャン。今日は負けないニャー、マリエルたん!」


 二人は仲間であり、好敵手でもある。

 良い意味で、互いに競い合っていた。


「ハリト様も一緒に、稽古はいかがですか?」


「ああ、オレも今日は大丈夫だよ。ん? あれ?」


 その時であった。

 大事な約束を思い出す。


「あっ! そうだ。カテリーナ先生に呼ばれていたんだ!」


 そういえ先生に言われていた。

 ……『今日の放課後、先生の部屋まで来るように』と。


 マリエルたちに会ったことで、すっかり忘れていたのだ。


「先生の呼び出し? それはマズイニャん、ハリトたん!」


「だよね……じゃ、ちょっと行ってくるから、二人は先に自主練を始めていて!」


 マリエルたちと別れて、急いで学園に戻る。

 時間的にはダッシュで向かえば、何とか間に合うはずだ


(それにしても先生の呼び出し、何だろう? もしかしたらエルザの容態のことかな……)


 実はあの日から、エルザはまだ目を覚ましていない。

 今もカテリーナ先生の奥の部屋で、治療中だった。


(エルザ……早く、目を覚ましてくれ……)


 こうしてカテリーナ先生の部屋に向かうのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る