第14話王女の理由

 オレは自由を手にして、北の名門キタエル剣士学園に入学。

 謎の激ヤセでイケメン風に、クラスの女の子からも高い好感度を。


 そんな中で、転入生のお姫様マリエルの強襲を、何とか撃退。

 暴走した彼女を助けるのであった。


 ◇


 気絶したマリエルを抱き合え、オレは校舎に向かう。


「このまま医務室に……そうだ、先生のところに行こう!」


 行く先を変更。

 校舎内にあるカテリーナ先生の個室を、先に訊ねることにした。


 何故なら先生は魔道具のスペシャルとで、回復術に詳しいのだ。


「先生いますか? ハリトです」


 先生の教員個室をノックする。

 今は放課後。

 まだ、いるかな?


「開いています。入ってください」


 よかった、先生がいた。


「はい、失礼します!」


 マリエルを抱きかかえながら、部屋に入っていく。


 白衣のカテリーナ先生は読んでいた本から、こちらに視線を向ける。


 視線の先はマリエルの胸元。先ほどの戦闘で、少し乱れている制服だ。


「ハリト君、もしかしてマリエルさんと、この部屋で性行為をするつもりですか? ここはそういう場所ではありませんが?」


「い、いえ、違います、先生! 実は……」



 まずは部屋にあるソファーに、マリエルを寝かせる。


 すぐにエッチな誤解を解くために弁明。

 そして先ほどあった出来ごとを、先生に簡潔に説明していく。


「……なるほど。それは間違いなく“魔力欠乏症”です。私の方で治療しておきます」


 事情を聞いて先生は、寝ているマリエルの治療に当たる。

 薬や色んな魔道具で処置していく。


「う……カテリーナ先生? それにハリト様も?」


 しばらくしてマリエルが目を覚ます。

 よかった!

 まだダルそうだが、意識はハッキリしている。


「ハリト君が、貴女をここまで運んで、私が治療しました」


「ああ、そうでしたか……お手数をおかけしました」


 上半身を起こして、マリエルは頭を下げてくる。

 普通の王女は、庶民は頭など下げない。

 かなり礼儀正しい。


「大丈夫、マリエルさん?」


「はい、ハリト様。私は、もう歩けます……うっ……」


 立ち上がろうとして、マリエルは軽く目まいを起こす。

 何とか歩けそうだが、少しだけ心配な様子だ。


「“魔力欠乏症”は、その内に回復するから大丈夫です。とりあえずハリト君、マリエルさんを特別寮まで送ってください」


「マリエルさんを寮に? はい、わかりました!」


 校舎はもうすぐ閉館となる。

 足元が不安なマリエルを、彼女の寮まで送ってあげることにした。


「あっ、ハリトくん。校内で、くれぐれも不順異性交遊は、いけませんよ」


「し、しませんから! では、失礼します!」


 どうも、あの部屋にいるカテリーナ先生は、エロスに満ちあふれている。

 本人は真面目に注意しているつもりだが、何かアダルトになってしまうのだ。


「よし、行こうか?」


「はい、よろしくお願いいたします」


 マリエルに肩を貸しながら、校舎を後にする。

 外は夕方になっていた。


 彼女の寮まで、一緒に敷地内を歩いていく。


「ハリト様、今回のことは本当に申し訳ありませんでした……」


 歩きながらマリエルが、泣きそうな声で謝ってきた。

 今回の襲撃の事件について、謝罪してくる。


「そんな顔しないでよ、マリエルさん! オレは大丈夫だから気にしないで! ほら、オレはカスリ傷一つないし!」


 腕をグルグル回して、元気なことをアピール。

 満面の笑みで元気づける。


「ふっふっふ……ハリト様、本当に面白い方ですね」


 マリエルに元気な笑顔が戻る。


「そうかな? オレは普通なつもりだけど?」


「いえ、ハリト様は本当に素晴らしい方です。類まれな剣の腕を持ちながらも、一向に驕(おご)ることなく、常に自然体です」


「自然体か……それは、そうかもな」


 王都を出てから、オレは自分に正直に生きることにした。

 常に前向きに、一生懸命に進む。

 だから自然体に見えるのであろう。


「ねぇ、マリエルさん……」


「マリエルでけっこうです」


「それなら、マリエル。一つ聞いてもいいかな? キミがどうして、あんなに強さにこだわっていたかを?」


 気になっていたことを、質問してみる。

 先ほどの襲撃。マリエルは自分の本心を、オレにぶつけてきた。


 そこから感じたのは『彼女の強さに対する、狂気なまでの執着心』だった。


 何しろ命を賭けてまで、【第三階位】の【暴風斬り】を発動してきたのだ。

 尋常ではない理由があるのであろう。


「あっ、でも、マリエルが言いたくないなら、もちろん言わなくても大丈夫だから!」


「いえ、ハリト様には本当に、ご迷惑をおかけしました。私には正直に話す義務があります。少し個人的な話ですが、よろしいですか?」


「ああ、もちろん。オレは大丈夫。そこに座って聞くよ」


 話が長くなりそうなので、途中のベンチに座ることにした。

 小高い丘にあり、遠くには沈んでいく夕日が見える。


 ここならゆっくりと話も聞ける。


「ハリト様……実は私……“強く”なりたいんです」


「強くか……でもマリエルは、あんなに強いよね?」


 オレの疑問が思うのも無理はない。

 転校してきたばかりだが、マリエルの実力はクラスの中でも断トツだ。


 何しろ新入生なのに【第二階位】まで完全習得。

 暴走はしたが【第三階位】にまで、足を踏み入れているのだ。


 おそらくキタエル学園の全生徒の中でも、上位の強さであろう。


(そんな彼女が“もっと強くなりたい”……か)


 オレは何か気が付く。


 ――――王族であるマリエル姫は、王都に住んでいたはず。


 普通なら王都剣士学園に通うのが、彼女の王道。

 あそこなら王都中等部から、高等部にエスカレート式で上がれる。


 だが彼女は、こんな辺境のキタエル学園に、わざわざ転入して来た。

 つまり王都学園で“何か”があったのであろう。


「もしかして前にいた学園で……何かあったの?」


「はい、ハリト様の推測のとおりです。私は前の学園……王都学園の中等部で、“ある者”に決闘で負けてしまったのです……」


「えっ……あんなに強いマリエルが⁉」


「私は完膚なきまで、負けてしまいました。決闘での敗者の条件は、『王都学園を去る』こと。私は王都を去りました。でも、諦めきれず……それでは藁(わら)にも縋(すが)る思いで、北の名門キタエルにやってきました……」


 なるほど……そういうことだったのか。

 マリエルが、あそこまで強さに執着する理由が分かった気がした。


 彼女は決闘で負けた相手に、いつかリベンジしたいのであろう。

 だから危険を承知で、【第三階位】も発動しようとしたのだ。


「でも、マリエル。無理は禁物だよ。ほら、キミは才能があるから、いつかは立派な剣士になれるよ!」


「ありがとうございます、ハリト様。ですが私は早く……もっと強くなりたいのです! あの時の悔しさを、払しょくするために……」


 強さに関してマリエルは、かなり頑固な性格のようだ。

 決意の意思は固く、説得に応じてくれない。


(でも、その気持ち……オレも分かるかも……)


 剣の才能が無いオレは、今まで必死に稽古に励んできた。

 周りの誰から止められて、止めることはしなかった。


 何故なら『強くなりたい!』というのはオレの真なる想い。

 誰かに変えることなど、絶対に出来ないのだ。


(何とかマリエルの願いを、叶えてあげたいな……)


 でも教師でもないオレは、彼女に剣技を教えることは出来ない。

 いったいどうすれば、いいのだろう?


(ん……あっ、そうか!)


 その時、一つアイデアが浮かんできた。

 かなりいい感じの策だ。


 よし、マリエルに提案してみよう。


「ねぇ、オレから提案が、あるんだけど?」


「えっ……提案ですか?」


「そう。マリエルは強くなりたいだよね?」


「はい、そうです!」


「それなら今後、オレと一緒に、修行していかない?」


「えっ、ハリト様と、修行を⁉」


「そう。まぁ、修行といっても、特に難しいことはなくて、実戦稽古的とか武者修行な感じかな?」


「なるほど。でもハリト様、今でも十分、強いのに、特訓を?」


「実はオレ……あまり、あの力は、上手くセーブできないんだ」


 これは嘘でも方便でもなく、本当のこと。


 無料寮を消滅させた後。

 オレは何度か【雷光斬(ライ・コウ・ザン)】の発動を、試してみた。


 だが上手く発動できなかった。

 おそらく完全には会得していない。


 だからオレも個人的な特訓が必要なのだ。


「上手く発動できない剣術技……それでハリト様は、学園では弱いフリをしていたのですね」


「ま、まぁ、そういうことだね」


 あの時に偶然、発動できたのは内緒にしておこう。

 お互いのプライドのためにも。


「だから、オレと特訓していこうよ!」


 この提案には、オレにもメリットが多い。

 何故ならオレも強くなりたい。


 でも危険なオレの【第一階位】の練習相手を、他のクラスメイトには頼めない。

 しかし才能あるマリエルなら、何とか相手をしてくれるだろ。


 だからマリエルとの個人特訓は、オレも望んでいるのだ。


「もちろん、嫌だったら、断ってもいいよ?」


「いえ、ハリト様。むしろ私の方から、お願いいたします。二人での特訓することを!」


 マリエルは頭を深く下げてくる。


「これからご教授よろしくお願いします!」


 上げた顔は、清々しいほどの表情。

 スッキリとした表情だった。


(おっ、良い表情だな。もしかしたら、これがマリエルの本当の素顔なのかもな)


 彼女は馬車で出会った時から、どこか作った表情をしていた。

 教室でも、なんか他人行儀だった。


 原因はきっと今回のことだったのだ。



 王都学園を追われてから彼女は今まで、思いつめて毎日過ごしてきたのであろう。

 本当の自分の笑顔を抑えて。


「よし、それなら、今日からよろしく、マリエル!」


「はい、ハリト様!」


 そして彼女は本当の笑顔を取り戻した。


「それじゃ、今日はここまで。あとは明日にでも決めていこう!」


 オレたち新たなパーティーを結成した。

 さっそく明日の放課後から、特訓を開始することに。


「さて。それじゃ、マリエルを寮に送って、オレも早く戻らないとな……あっ!」


 そんな時、オレはある事実に気が付く。


「そ、そうだ……オレ、今日から、どこで寝泊まりすれば、いいんだ……」


 今日の朝まで寝泊まりしていた無料寮は、オレ自身が【雷光斬(ライ・コウ・ザン)】で吹き飛ばしてしまった。


 担任のカテリーナ先生に寮のことを相談するにも、既に校舎は真っ暗。

 他の教員も誰もいない。


「も、もしかして、今宵は野宿かな……でも、なんか雨も降りそうだな……」


 上を見ると、急に暗雲が大接近。

 何の野営道具もなく、この天気で野宿は辛いな。


「それならハリト様、今宵は私の部屋に、お泊りください!」


「えっ、でも、女子寮には、男子の立ち入りは、禁止を……」


「それは大丈夫です。私の部屋は王族用の特別寮なので、校則の治外法権なのです」


「そうなんだ。でも、女の子の部屋に、男子が泊まるのは、さすがに……」


「ハリト様の寮が消えたのも、元の原因は私の暴走。私には恩を返す必要があります! さぁ、こちらにどうぞ! 雨が降ってくる前に」


「えっ、ちょっ、ちょっと、まっててば……」


 マリエルは思いこんだら、強引な子だった。


 しかも魔力が高いでの、腕力も半端ない。

 オレは抵抗することが出来ない。


(マリエルの部屋に……オレが……えっー⁉)


 こうしてオレは王女様の寝室で、夜を明かすことになったのだ。


 ――――色んな意味で、大丈夫か……オレ。

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