第11話個室に呼び出し

 自由を手にして北に旅立ち、オレは北の名門キタエル剣士学園に入学。

 謎の激ヤセでイケメン風に激変したが、何とか元気に学園を過ごしている。


 だが授業初日で、大事な魔道具を壊してしまう。


 ◇


 適性検査をした日の放課後になる。


「し、失礼します。ハリトです!」


 緊張しながら、カテリーナ先生の教員部屋をノックする。


「開いています。入ってください」


「は、はい!」


 心臓をバクバクさせながら、部屋に入っていく。

 はたして、いったいどんな風に怒られるのであろうか。


「そこのソファーに座ってくだい」


「は、はい、失礼します!」


 部屋の端にある、ソファーに姿勢を正して座る。

 緊張しながら、チラリと部屋を見渡す。


 白衣のカテリーナ先生は、読んでいた本を閉じている。

 その後ろには本棚があって、難しそうな本が沢山並んでいる。


 もしかしたらカテリーナ先生は、何かの研究もしている人なのかな?


「そうですね、私の本分は剣士ですが、魔道具の研究もしています」


 あっ……また先生に表情を読まれてしまった。


 でも、なるほど、そうだったのか。


 たしかに先生は知的な眼鏡をかけて、研究者っぽさもある。

 あと美人女医さん的な感じも。


 とりあえず失礼にならないように、キョロキョロするのを止める。


「さて、本題に入ります。今日の午前中、ハリト君が使った魔道具が、謎の消失をしました」


「あっ……ほ、本当に申し訳ありませんでした」


 いよいよ本題に突入した。

 頭を深く下げて、精一杯の謝罪の気持ちを現す。


「いえ、消えてしまった物は、仕方がありません。ですが原因を調べる必要があります。とりあえずハリト君、服を全部脱いでください」


「えっ⁉ 服を⁉ は、はい……」


 いきなりの指示だったので、思わず声を高める。

 でも壊したのはオレ。断ることはできない。


 制服とズボンを脱いでいく。

 シャツも脱いで、パンツも……


「いえ、パンツは、そのままで結構です。では調べるので、立ってください」


「あっ、はい」


 言われるがまま、立ち上がる。

 パンツ一丁で直立不動の状態だ。


「ふむ……こうして見たところは、普通の身体ですね」


 オレの周りを一周して、先生は首を傾げる。

 一体何を調べているんだろう。


「それでは次はソファーに、上向きに寝転んでください。両手は真っ直ぐ上に、伸ばしてください。はい、そんな感じです」


 先生に言われるままに、ソファーに寝転び万歳のポーズをとる。

 少し恥ずかしいが、オレは過失者。

 全てに従うしかない。


「これから、もう少し詳しくハリト君の身体を調べるので、我慢してください」


「えっ、我慢ですか? ひゃっ⁉」


 思わず声を出してしまう。

 なぜならカテリーナ先生が急に、オレの上の乗っかってきたのだ。

 しかも凄い密着度で。


「せ、先生……何を……」


「これからハリト君の体内の魔力の流れを、不自然なところがないか、調べていきます。触診する必要があるので、我慢してください」


「ま、魔力の流れを? は、はい、我慢します!」


 よく分からないが、我慢することにした。


「では、いきます」


 先生は密着しながら、オレの全身を舐めるように触ってくる。


(うっ……先生……近すぎます……それに胸が、オレの顔に……)


 カテリーナ先生の胸が、オレの顔に落ちてきた。

 しかも白衣の生地は薄く、その下も薄い下着だけ。


 先生の大きい胸が。

 マシュマロのように柔らかい胸が、オレの顔に押しつけられる。


「ふむ……両手は問題ないようですね……」


 でも先生は全く気にしていない。

 調査に熱中して、ガンガン身体を押しつけてくる。


 胸の柔らかさと大きいで、オレは息ができない。


「もしかしたら足の方の魔力の流れが、原因かもしれませんね……」


 先生はブツブツ呟きながら、立ち上がる。


(ふう……よ、よかった……死ぬかと思った……)


「では次は足を調べます」


「えっ?」


 安堵の息を吐いた瞬間だった。

 今度は逆さまの状態で、先生が乗っかってきた。


(うっ……こ、今度は、先生の太ももが……オレの顔に……)


 先生の白衣の下はミニスカート。

 真っ白な太ももが、オレの顔を両側から挟む状態になる。


(し、しかも先生の赤い下着が……)


 ミニスカートの下の下着が、目の前に迫ってくる。


 物凄く官能的な香りが、オレの鼻の奥に流れ込んできた。

 初めて嗅ぐ大人の女性の匂いだ。


 うっ……この体勢も、かなりまずいぞ。


「ふむ……足の魔力の流れは正常ですね? 私の見当違いなのか?」


 だが先生は気にする様子はない。

 調査に熱中するあまり、自分の恥ずかしい体勢に気が付いていないのだ。


(せ、先生……そろそろ、オレ、ギブアップです……)


 先生の大人の香りに、オレは意識が朦朧(もうろう)としてきた。

 このままでは気絶して、昇天しまいそうだ。


「ふう……どこも問題なしですか。私の見当違いだったのか? とりあえず、今日の触診は終わります」


 間一髪のところで先生が離れてくれる。


「ぷ、プファー! はぁ、はぁ……」


 すぐに深呼吸して、頭に空気を送り込む。

 ふう……よかった、オレ。


 死なないで、本当によかった。


「ん? どうしましたか、ハリト君? 顔が真っ赤ですが?」


「い、いえ。何でもありません。ところで、何にを調べていたんですか? 魔力の流れとか?」


 心を落ちつかせて、気になることを質問する。

 話の流れ的に、オレの身体に病気でもあるのだろうか?


「いえ、違います。午前の魔道具が異常表示……いえ、壊れてしまった原因を調べていたのです」


『異常表示』という言葉を、先生は言い直した。

 オレにこっそり見られたことを、気が付いていないのだ。


(ん? ということは、あの【ランクX・次元剣士】は訳ありだったのかな?)


 先生が隠している理由は分からない。

 でも、雰囲気的にあまり良い方の理由ではなさそうだ。


 おそらく【ランクX】はかなり悪い結果なのかもしれない。


(こういう場合は……オレも知らないフリが吉だな……)


 何か問題があったら、先生の方からアプローチがあるだろう。

 それまでオレからも言わないでおこう。


「それでは今日の呼び出しは、これで終了となります。服を着て帰宅して大丈夫です」


「あ、はい。ありがとうございました!」


 とにかく先生は心配してくれている。

 カテリーナ先生は少し変わっているけど、悪い先生ではない。


 オレは服を着て、退出の準備をする。


「それでは失礼しました、先生」


「あっ、ハリト君。もしも身体に異変があったら、すぐに私に報告をしてください」


「異変を……はい、分かりました」


 やっぱり先生は良い人だ。

 今後も信頼して付いていこう。


「もしも異変があったら、次はパンツも脱いでもらいます。肛門内や性器も念入りに調べます」


「えっ……こうも……せ、せ……し、失礼しました!」


 やっぱりカテリーナ先生は変な人だった。

 ダッシュで研究室を飛び出していく。


 全力で寮の自室に逃げ帰らないと!


(これから体調は、絶対に、最高に、常に万全にしていこう! パンツを死守するために……)


 こうしてオレは一つ学んで成長した。


 大人の女性には――――色んなタイプがいるということを。


 ◇


 翌日になる。


 身体には特に異変はない。

 むしろ絶好調なくらいだ。


 朝の準備を終えて、オレは教室に向かう。


「よし、今日は失敗しないように、頑張るぞ!」


 気合を入れてから、教室に入っていく。


「それでは、今日の授業を始めます」


 入室と同時に、白衣姿のカテリーナ先生も登場。

 時間は開始ギリギリなので、例のピチピチ女の子三人衆は回避できた。


 オレの作戦は大成功だ。


「さて授業を始めるまえに、新しいクラスメイトを紹介します。どうぞ、入ってきてください」


 なんと転入生がいるという。

 先生の紹介で、見慣れない少女が鍛錬場に入ってきた。


 彼女が新しいクラスメイトなのであろう。


「この方は事故にあって、昨日の入学式に間に合いませんでした。ですが今日から同じクラスメイトになります。そではマリエルさん、自己紹介をどうぞ」


「私はマリエル・ワットソンと申します。皆さん、よろしくお願いたします」


 転校生はマリエルという銀髪の少女だった。


 歳はエルザと同じくらいだけど、身長はこちらの方が少しだけ小柄。

 身体の線が細いく、すごく可愛らしい子……美少女だ。


 口調は丁寧で、気品のある雰囲気。

 もしかしたら、どこかの貴族令嬢なのかもしれない。


(ん? あれ……この子……どこかで見たことがあるような……)


 可愛らしい顔に、なぜか見覚えがあった。

 でも、着ている制服との違いで、なかなか思い出せない。


 思い出すために、顔をじっと見つめてしまう。


「ん? えっ⁉」


 そんな時、視線が合ってしまう。

 マリエルさんはビックリした顔になっていた。


 しまったジロジロ見てしまったことを、後悔してしまう。


「そ、そのお顔は!」


 マリエルさん、急にこちらに向かってくる。

 まだ朝のホームルーム中だというのに、お構いなしに一直線に近づいてきた。


「やはり! 貴方様は、あの時の“フードの剣士様”!」


「えっ、“フードの剣士様”……?」


 聞きなれない二つ名に、思わず首を傾げる。

 でも、どこか一度だけ聞いたような、気もするけど、どこだっけ?


「私はあの時、魔獣から救っていただいた者です!」


 マリエルは真剣な表情で、オレの手を握ってきた。

 すごく柔らかい手。


 そして、真剣なその表情を見て、オレは全てを思い出す。


(あっ、そうか! この子は……“三つ目大熊”の時!)


 ようやく思い出した。

 三日前、この街に向かう道中での出来ごとを。


 そうか、あの時の子はキタエル学園の新入生だったのか。


「そのお顔は、思い出してくれたのですね! ああ、お会いしたかったですわ!」


 転校してきたばかりの美少女に、いきなり抱きつかれた。

 マリエルは目をウルルさせて、ほおを赤くしている。


(えっ? えっ? ど、どうしたの、急に?)


 こうして新しいクラスメイトを迎えて、オレの波乱の学園生活は続いていくのであった。

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