第421話 夜までお預け

 カルヴァン子爵領内に聳える、石灰質のカルヴァドス山。この山が秘める経済的な可能性に思い至った俺は、姉ノエルにカルヴァドス山の話をするべく車を一時停車させる。

 幸いにして、馬車同士がすれ違えるように少しだけ道幅が広めに設けられているので、停車スペースには困らない。皆には少しの間だけここで待機してもらって、俺は姉貴のいる皇都へと時空間転移だ。


「すまん。ちょっとだけ抜ける」

「ノエル殿のところに向かうんでありますね」

「うん。こういう話は早ければ早いほど良いから。悪いな、旅行中に」

「気にするでない。むしろメイル的にも身体が休まって一石二鳥じゃろう。お主がいない間の守りは妾とイリスに任せるが良い」

「わたしも問題ない。むしろ故郷のカルヴァンが栄えるなら大歓迎」


 皆がそう言ってくれて助かった。とはいえそこまで長い時間待たせるわけにもいかない以上、できるだけ早く戻ってくる必要がある。


「それじゃあリリー。悪いんだけど頼めるかな」

「うん、いいわよ。皇都の自宅で良いかしら?」

「そうだな。流石に文理学院の寮には行ったことないしな」


 リリーの転移魔法は、一度訪れたことのある場所にしか飛べないのだ。しかも現在地や目的地の座標情報が曖昧だと、転移魔法は発動しない。移動時間が節約できるので果てしなく有用な魔法ではあるんだが、決して万能ではないのだ。

 だがそれも転移門を開発したことで、柔軟性こそ犠牲になったが利便性は向上した。今では皇国の各地に軍の最重要施設として転移門が設置されており、軍務がある時には基本的にそちらを使うようにしている。

 今回は完全にプライベートの旅行だし、そもそも転移門を使わなくともリリーがいるので、こうして彼女にお願いすることにしたわけだ。


「それじゃ――――『転移』」


 リリーが足下に展開した魔法陣が俺達を包み込むように広がり、青白い魔力反応光を放出して輝き出す。

 眩しくて目を開けられなくなったあたりで感じる、唐突な浮遊感。ほんの一瞬だけ落下するような感覚を味わった直後に、周囲の空気が変わったのがわかった。

 目を開けて辺りを見回してみれば、見慣れた俺とリリーの寝室だ。傍らには魔力を消費して少しだけ疲れた様子のリリーが立っている。


「んー……やっぱり何度経験してもこの感覚は慣れないな」

「ハル君、それ毎回言ってるわね〜」


 時空間魔法の使い手であるリリーにとっては、こんな感覚なんてとりたてて騒ぐほどのものでもないんだろう。もちろん俺も違和感がどうしても拭えないだけで、別に耐え難い苦痛を伴うわけでもないのだ。


「さてと。あいつらを待たせてるわけだし、できるだけ急いで向かおうか」

「何で行くの?」

「バイクかな。徒歩とか馬車だと時間かかっちゃうからね」

「なら着替えちゃうわね」

「おう」


 そう言っていきなり着ていた白ワンピを脱ぎ出すリリー嬢。年頃の女の子らしいむちむちした太ももに、真っ白なおパンツ様に包まれたプリッとしたお尻。そしてキュッと細くくびれた腰と、フリフリの白いブラジャーに守られた形の良い美巨乳が現れた。


「!」

「ハル君、目がエッチ……」

「だってリリーが魅力的だから!」


 ちょっとだけ恥ずかしそうに頬を染めながら、しかし俺相手に隠すものなんて無いとばかりにわざわざこちらを向いてその均整の取れた肉体美を魅せつけてくるリリー

 あかん。下半身に血流が……ッ。


「ハル君」

「リリー……」


 そのままほとんど裸の状態でそそ……と近付いてきたリリーは、艶かしく微笑みながら人差し指を俺の唇に添えて一言。


「夜までお預け」

「…………おう」


 どうやらまた今晩も眠れない夜を過ごすことになりそうだ。





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