第388話 壊れるほど情熱的に

 マリーさんと互いの想いを伝え合ったその日。俺達は数少ない宿泊施設の一等室をあてがわれることとなったわけだが……非常に面白いことに、なんと俺とマリーさんは同室であった。

 普通、男女で分けるものだろうと思って宿を手配したオレリアに訊ねてみたところ、「あら〜、お二人はお付き合いなされているのでは?」と逆に驚きの目で返されてしまったのにはほとほと呆れ果ててしまった俺である。

 まあ、付き合い始めたのはつい数時間前とはいっても、付き合っていることが事実であるのには変わりないので、ありがたくその余計な好意を受け取ることにする俺とマリーさん。

 もっとも、ありがた迷惑というにはあまりにありがたすぎるので、心証としてはそんなに悪くはないが。


「ま、まあ? 妾達は既に恋人同士なわけじゃし? 同じ部屋でもまったく問題はないよの」


 腕を組みながらそう言うマリーさんのお耳は真っ赤である。というかつい先日までソファで俺の膝の上に乗ったり、同じ布団で寝たり、一緒にお風呂に入ったりしていたくせに、今さらそんなところで赤くなるのはいったいどういう内心の変化だろうか?

 そう思いながら部屋に入ってみれば、あらビックリ。なんとベッドすらも一つであった。サイズは二人でもゆったりなキングサイズで、枕は二つある。

 そして枕元にほど近い机の上には催淫作用のあるお香が鎮座ましましていた。しかもちゃんと焚いてある始末だ。ここまで至れり尽くせりだと、もうなんというか……オレリアァ!


「たまにはオレリアの奴も気が利くのう」

「えっ、これで⁉︎」


 このひたすらお節介なお膳立てをもってして、「気が利く」だと⁉︎ 少し……いや、かなり驚きである。


「あやつは棟梁時代の妾の副官での。『世界樹の巫女』になった頃からの付き合いじゃ」

「結構長い付き合いなんだね」

「うむ。ゆえにお節介なところも、厄介な性格もよく知っておるが……これはあやつなりに妾の背中を押してくれとるんじゃな」

「背中を?」

「そうじゃ」


 そう言って、マリーさんはてくてくとこちらへと近づいてくる。近づきながら、しゅるしゅると軍服のベルトを抜き、ズボンを下ろして、上着を脱ぐマリーさん。


「マ、マリーさん?」


 やがてブラウス一枚になったマリーさんは、そのボタンすらも順番に外してゆく。


「のう、エーベルハルト」

「うん」


 すっかり服をはだけさせたマリーさんは、あられもない姿のままその場で背伸びをして、俺の顎へと手を伸ばし――――そのままクイッと引っ張って口づけをしてきた。


「んむっ」

「ンッ」


 深い森のマイナスイオンみたいな清涼感溢れる香りが、肺腑の中へと入り込んでくる。と同時に感じる、下腹部の猛烈な熱。これは――――間違いない。皇国でも一般人相手には使用が禁じられている禁忌、催淫魔法ドスケベ・マジックだ。


「マリーさん……これの意味がわかってる?」

「妾とて子供ではないのじゃぞ。……経験こそないが、覚悟はできておる」


 そう言いながら蠱惑的な笑みを浮かべるマリーさん。そのまま俺を誘うようにブラウスを脱ぎ捨て、微妙に湿り気を帯びたショーツを下ろし……。


 そこから先は言うまでもあるまい。この日、俺はマリーさんを抱いた。それはもう熱く激しく、催淫魔法に突き動かされるようにして、壊れるほど情熱的に彼女と愛を交わし合った。

 見たこともないほどに乱れるマリーさん。そんな彼女はしかし、手だけはずっと俺の手に絡めて離さないのだった。





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